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アストリッド:戻ったのね。それで・・・例のアミュレットは本物なの?
Sumomo:・・・はい。元老院のメンバーの一人に特別に作ったものだそうです。
あとそれから、これをアストリッドにと・・・
デルビンから貰った信用状をアストリッドに手渡した。
内容を確認したアストリッドの顔は、ニヤリと笑みを浮かべて言った。
アストリッド:すばらしい・・・・!これなら、次の工程に進んでもよさそうね。
何を言われても夜母が話をしたのなら・・・あなたに全てやってもらうしかないのよ。その責任は重要よ。
Sumomo:そうですね・・・そうかもしれません。
Sumomoは少しうつむきながら答えた。
アストリッド:ところで、何かいいドレスは持ってる?
・・・その様子じゃ、何も持っていないようね。怪しまれないように綺麗な服を用意してきて。
・・・・・・次の仕事は、結婚式に混入するのよ。
Sumomo:え・・・結婚式?・・・今回の仕事と、どういう繋がりが・・・?
アストリッド:・・・結婚式というより、披露宴に近いわね。一生記念に残るような・・・
素敵な行事になるはずよ。招待客とおしゃべりして、ケーキを食べて・・・花嫁へ入刀。
そう・・・花嫁を殺すの。標的は皇帝タイタス・ミード2世の従姉妹、ヴィットリア・ヴィキよ。
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シセロ:お前はなぜあそこにいた?お墓の前で何をしていたんだ・・・?何か言ったらどうだ・・・?
ふーむ・・・おかしいな・・・私の尋問は優しいはずなのに・・・。
「・・・・・・」
このテディベアを拾ったのは、私がソリチュードに到着して間もなくの頃だった。
・・・――――――――――――――――――――――・・・
私は聞こえし者への贈り物を用意するために、レディアント店へ向かっていた。
民家のある路地を歩いていると、石垣のすぐ下に小さな墓地があった。
何気にそこへ目をやると、墓石の前で氷のように一歩も動かないまま立っている一人の幼い少年がいた。
よく目を凝らしてシセロはジッと見つめる。
悲しみと憎しみとが入り混じった複雑な表情をしていた。・・・その少年の顔に見覚えがある。
あれは・・・・・・・私・・・?疑問を自分に問い続けていると、
道化師のアイツが囁いてきた。
『・・・近付いてごらんよ。私からの贈り物だ・・・きっと
いい物が見つかるよ』 ・・・と。
まだこのとき姿は見えていなかったが、私の頭の中でハッキリと声が聞こえてきたのだ。
不思議なことに道化師がしゃべる度、私の頭はボーっとする。
催眠術にかかったようにして、ふらふらしながら墓石近くまで足を運んでいた。
そして少年の元へ近付き、声を掛けようとしたその瞬間、幼い姿はスゥーと闇に消えてしまい
代わりに現れたのは青い色のテディベアだった。
・・・今のは私の遠い幼い記憶が、幻影となって現れただけなのだ。
それにしても墓の前で幼い私はいったい何をしていたのだろう?
そうして自問自答を繰り返しながら、レディアント装具店に着いた。
ターリエ:いらっしゃ~い!・・・・・・えッ・・・・・・
店員は目を丸くして、シセロのリュックに視線を注いだ。
『なにこの人・・・熊のリュックなんか背負って、そんな年齢でもないでしょうし・・・なんだか気味が悪いわ・・・』
露骨に嫌な表情を浮かべる店員に対して、シセロは冷たい視線で睨んだ。
エンダリー:ひッ!・・・・・・ど、道化の服だなんて珍しいですわ。珍品といってもいいくらい・・・
なんとも素敵な、お召し物ですこと。
ターリエ:ええ、ええ・・・赤いお色が引き立っていて・・・擦れた生地が良い味を出してますよ。
道化師のお茶目さと、ハンサムな顔立ちが絶妙なバランスです!
シセロを明るく振舞い出迎えた店員だったが、その表情は硬く引きつっている。
シセロ:君たち、何を訳のわからないことを言っているんだ?
おだててるつもりだろうが、シセロはちっとも嬉しくない。
それに私は、ここで時間を潰してる余裕はないのだ。一刻も早く最高のドレスを購入して
我が家に帰還したいんだ。
シセロ:タムリエルで最高のドレスを探している。私にとって偉大な方への贈り物・・・失敗は許されない。
シセロはカウンター奥の小部屋に、ディスプレイされているドレスを指差した。
ターリエ:あら・・・お客様、あんな真っ黒なドレスを選ばれるなんて・・・
大変お目が高いですのね。・・・とゆうか、ここから死角になっているのによくお気付きになられましたね。
店員のエンダリーは、黒いドレスを手に取りカウンターへ運ぶと自慢交じりの説明を始めた。
エンダリー:このドレスの生地の大部分は最高級のヴェルベットとカシミヤを交互に織っていますのよ。
綺麗に織り込むことは大変な技術がいりますの。刺繍部分はプラチナ糸でほとんど縫いつけてます。
したがって、この糸のおかげでお値段が倍以上に跳ね上がりますのよ。そして・・・
擦れに弱いので、一部分にだけシルクを使用してますわ。
ターリエ:肩の出るドレスですが、寒いスカイリムでも十分保温性に優れていますよ。
でも・・・・説明の最後で恐縮ですが、これは売り物じゃないんです。
200年前のある貴婦人の憎しみのこもった、曰く付きのドレスなんですよ。なので・・・
他のお客様は気味悪がって誰も近付こうとしません。
店員の説明をよそにシセロはテディベアを下ろした。
なにやらテディベアの腹の辺りで、ジャラジャラと細かな音がする。気になったシセロは
すかさず中身を確認しようと背中を見たが、ファスナーらしきものがどこにも見当たらない。
強引にテディベアの片足を持ち上げた途端、首の付け根から眩いばかりの宝石が
店内の照明をうけてキラキラと落ちてきた。
ターリエ:あ・・・あ・・・
エンダリー:まあ・・・!信じられない・・・高品質な宝石が沢山・・・!!
エンダリーは目を輝かせてうっとりしている。
ターリエは口をポカンと開けて、その光景を眺めるだけだった。
カウンターには山積みとなった宝石が、店員の心を見事に掴み込んだようで
黒いドレスの取引はスムーズに行われた。
『
アイツが言っていた、
いい物とは宝石のことを指していたのか?』
何気にテディベアの首の隙間から中身を覗こうとしたシセロ。
わずかな光を頼りに目視した内部は、
赤黒く染まっているように見えた。
店を出た後夜空を見上げると、先ほどよりも分厚い雲が覆い尽くしていて暗さが更に増していた。
この暗闇も夜風の冷たさも静寂さも、シセロにとって心地良かった。
悲しみや恐怖を感じることは、シセロにとって無縁なはずだった。
・・・不意に、道化師のアイツが囁けば、忘れかけていたあの
悪夢が蘇る。
レディアント装具店から道を挟んだ向こう側を、一人の少女が小走りで通り掛かった。
不意にシセロが顔を上げると、少女と視線が重なった。
シセロ:・・・。
『あの頃の緊張がとても懐かしくて・・・人を殺したくてたまらない?・・・欲望が抑えられないみたいだね』
・・・―――――と、私を惑わす男の囁きが風と共に耳を撫でる。
母よ・・・私はいったい、どうしたらいいのですか?・・・この剣を振るえる日はいつ訪れるのだろうか?それだけをずっと考えてた。
もう一度だけでいい・・・あの手の感触を、また味わいたい・・・それが本当の気持ち。
"上の者の命令ではない限り、あってはならない事"なんだとそう自分に言い聞かせて
理性を抑えようとする気持ち。
私の心に
迷いが生じるとき、道化師が必ず登場する。
『誰よりも目立ちたがりのお前が、今では立場が危ないし皆お前を避けたがっている。気味悪がり近寄ろうともしない。
私は同情するよ・・・。私とお前は似ているね・・・だからずっと傍にいる。・・・名誉を取り戻そう』
・・・―――――そうだ、あの懐かしい日々。あの頃の自分に戻りたい。
また生暖かい血の香りを・・・・
シセロの右手がナイフの鞘に触れた。
シセロ:可愛いネリーと出会ったら・・・ナイフをお腹に・・・・
シセロ:・・・・・・・・・突き立てよう。
「ヒィッ!!」
悲鳴を上げて少女は走り出し、ソリチュードの中心街へと消えていった。
・・・違う。・・・こんなの、ただの人殺しだ。
嫌だ・・・・・・今の闇の一党と同じじゃないか・・・。
・・・――――――――――――――――――――――・・・
・・・――――――――――――――・・・
シセロ:・・・まぁ、いい。なにか事情があって何もしゃべられないんだろう?
お前が助けてくれなかったら、今頃は手ぶらで帰ってきていたはずだ。
「・・・・・・」
シセロ:感謝しているよ。・・・私たちはあの瞬間から友達なんだ。
テディベアに幼い自分を照らし合わせ、過去の記憶の思いを馳せていく。
・・・―――――果たしてシセロの過去とは、いったいどんな風景だったのだろう?
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