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シセロ:・・・え?アストリッドの命令で花嫁を殺すことになったんだって?
シセロ:面倒な任務を負わされたねぇ。もし見つかればソリチュード兵の何百、何千という軍勢が
一斉に襲い掛かってくることになる。・・・もしそうなれば・・・・・・ぶるるッ・・・!想像しただけでも凍りつくよ。
Sumomo:・・・上流階級だけの集まりかと思ってたのに、一般市民も招いての披露宴らしいから・・・
もし殺したのがバレてしまったら、現場は大混乱になっちゃうわ。
・・・ずっと一人で考えていても解決策はみつからなさそうだし、後で闇の一党の皆に聞いてみるしかないかな・・・。
しかもこんな汚れた服装で行ったら、それこそ怪しまれちゃいそうで・・・
アストリッドが指摘した通り、披露宴に見合ったドレスの調達もしなきゃ。
シセロは突然、指をパチンと鳴らした。
シセロ:聞こえし者ぉ~!ナイスタイミングだ!いつ言おうかとドキドキしていたのだ。
以前約束していた物を今、渡す時がきたよ。
そう言うとシセロは鼻うたを歌い、隠してあったドレスをSumomoにプレゼントした。
Sumomo:え・・・えええ!!うそッ!・・・・・・これを私に?貰っていいの?
シセロ:まったく気にする必要はない。何故なら夜母に選ばれし聞こえし者だからだ。
部下である私からの貢物がなくては、おかしいだろぅ?
聞こえし者は事実上、闇の一党の最高位なのだから胸を張って堂々として欲しい。
・・・だが、この環境下だとまだ実感が沸かないのも無理はないね・・・。
あぁ、それと・・・もう一つ別な物もあるのだが・・・・・。
シセロは少しためらいながらもテーブルの上にそっと出した。それはヒールの高い黒いブーツだった。
Sumomoは恐る恐るそれを手に取りブーツ底のイニシャルを念のために確認した。
そこには"
S"の文字が刻まれている。明らかにSumomoが以前失くしたブーツと同じ物だった。
Sumomo:どうして私のブーツをあなたが持ってるのッ!?まさか・・・こんな趣味を持っていたなんて・・・
シセロ:へッ!?・・・勘違いしないでくれよォ!
聞こえし者のブーツが酷く傷んでたのを前から知っていたんだ。
修理しないであのまま履き続けていたら、怪我をするところだったかもしれない。
Sumomo:え・・・そうなの?・・・そこまで考えてくれていたなんて・・・。
でも私のよりよっぽどあなたの服のほうが・・・酷いんじゃない?
ツンとシセロの服を軽く引っ張ろうとすると、シセロは避けるようにして一歩後ずさった。
シセロ:あぁ、いいんだよ。・・・これは記念に貰った物で・・・い、いや・・・なんでもない。
私のことは気にしないでほしいのだ。
シセロは珍しく慌てた素振りで何か言いかけたが、口を直ぐに噤んでしまった。
その道化師服には何か思い入れがあるらしい。Sumomoはこれ以上深く追求することはしなかった。
Sumomo:ごめんなさい。悪気があってやったわけじゃないから・・・。
シセロ:何も問題は無いよ。シセロは怒ってない。
・・・そんなことより、これをさっそく試着してみないか?
私は聞こえし者がこの漆黒のドレスを着た姿を早く見てみたいのだ。・・・あああ~待ちきれない。
見たい・・・見たいッ!
シセロの目がキラキラと輝いているように見えた。そして、ギュッと強く握られた拳には
力が込められている。
Sumomo:はッ!・・・その目は・・・怪しい・・・何か企んでるなぁ~?
シセロ:―――――!? 馬鹿を言うな!決して、いやらしいことを想像していた訳ではないッ!
これは・・・聞こえし者に対して当然あってはならないことだ。
Sumomoは無言で更にシセロに冷たい視線を送り込んだ。
シセロ:シセロを疑ってる?疑っているのかぃ??・・・・・・いや、うん、そうだね・・・へへ。
今のは強がっていただけだ。・・・ちょっとは思っているよ・・・男だからねぇ・・・へへへ。
・・・正直、聞こえし者の生着替えが間近で見れるとは、非常に貴重な体験・・・・
ゴッ!!※殴った音――――――――――――――― 数分後。
Sumomo:・・・どうかな?ウェストにはあまり自信なかったんだけど・・・
きつくもなく緩くもなく・・・意外とピッタリはまった感じかな。
・・・!? あ、あんまりジロジロ見ないでよッ! ・・・恥ずかしいんだから。
Sumomoはシセロの目線から逸らして、俯いた。
シセロ:さすが私が選んだだけのことはある。やはり聞こえし者には漆黒の衣装が一番似合うねぇ。
はぁ・・・しかし、着替えるところを観察できなかったのは非常に残念に思うよ・・・。
『諦めが悪いなぁ、まだ言ってる・・・』
Sumomo:・・・シセロの気持ちはこれでよく分かったわ。
こうして二人きりになった時でしか言えないかもしれないけれど・・・・・・
・・・私のことを気遣ってくれて、ありがとう。
照れながらもシセロの顔を真っ直ぐ見つめ、感謝の気持ちを伝えた。
Sumomoのその姿を見て、シセロの顔に笑みがこぼれた。
シセロ:・・・クスッ。私の心は少し満たされた気がする・・・だが、まだ十分じゃないんだ。
果たして言いたいことはそれだけなのか疑問だよ。
"
身内"は今のところ2人だけなんだし、ほら・・・周りには誰も居ないんだ。
だからもっと聞きたいよ・・・聞こえし者の心髄をねぇ。
Sumomo:え・・・?わ、私にはこれ以上のことは何も出てこないよ。
・・・何かあったとしても、今言うべきことじゃないと思うの。
私にはまだ余裕がないし・・・今請け負った任務がどれだけ私に負担になっているか。わかるでしょ?
・・・あなたは嘗て殺しのスペシャリストだった。
今までの経験を思い出せば、きっと今の私の辛い状況を把握できるはずよ。
・・・――――――――2人の間にしばらく沈黙が流れた。
シセロはその場の不穏な空気を感じつつ、顎に手を当てたまま考え込んだ。
Sumomoはシセロの顔をジッと見つめ、答えが返ってくるのを待っていた。
シセロ:・・・・・・。聞こえし者に従わなければ・・・。また我慢しなければならないのか。
いったい、いつまで耐えればいいのだ?・・・この寂しさに。
Sumomo:寂しい・・・?嘘・・・。私が居ても居なくても・・・・・・そうよ、あなたには夜母がいるじゃない。
シセロ:・・・・・・。
聞こえし者はそうやって私から逃げるのだね・・・。夜母への愛を失ってしまえば、私が守りし者としての意味が無くなってしまう。
・・・それは言うまでもないことだ。
古き慣わしを守る為に、聞こえし者を守る為に・・・Sumomoが"嫌な連中"との係わり合いをもつことは
出来るだけ避けさせたいのが、シセロの本音。
唯一、シセロにとっての家族はSumomo・・・・ただ一人のみだった。
聞こえし者の存在が大きくなり始めると、シセロを一層苦しめた。
焦りと、もどかしさが入り混じり、気が休まることはもう無い。
"
聞こえし者が私から離れていってしまうのではないか?"・・・という恐怖心すら覚えてしまう程だった。
"
危険から守りたいという愛"とそこからいつの間にか発展していった
"
特別な感情となった愛"・・・・。
この2つの愛が異なっていることを、シセロはあまり理解できずにいた・・・。
「披露宴で花嫁を殺す計画も特別なものにしてあげなければ。
人生で一番幸せな記念日に美しい姿で死ねるんだから。迷える魂を虚無へと送ってあげようよ・・・」
これまで愛してきた兄弟姉妹以上に、私は私なりの愛情を聞こえし者へ捧げる。
聞こえし者への愛おしさが芽生えなければ"寂しさ"を感じることも無かっただろうけど・・・。
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幼い頃、私は今よりも不幸だったし孤独だった。だから何もかも手探りで生きてきた。
親の愛情など知らない。
どんなものだったのか・・・ただ覚えていないだけなのか?
手に入れたかったものを得ることは、そんなに難しくはなかった。
・・・それが周りの大人たちの目にどう映っていたかは分からない。
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シセロは執念を燃やす。
・・・・・・―――――――――――"
誰にも奪われたくない"と。
それがたとえ奇怪な行為に映ったとしても、私はいつか木の蔓となり聞こえし者を我がものとするだろう。
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