シセロとヴィーザラが睨み合ったあの日から、私に対しての接し方が遠慮がちになっているのが
手にとってわかる。それでもヴィーザラは優しく、Sumomoを心配して声をかけてくれた。
ヴィーザラ:お前には借りを作ってしまった。その・・・何ていうか・・・礼を言うよ。
俺はお前との約束を守れず・・・申し訳なく思っているが、後悔はしていないさ。今は・・・幸せなんだ。
『え?・・・何の・・・こと?約束・・・・・・まさか!ヴィーザラが私の
忠告を無視したなんてありえない。
アーンビョルンにもしもバレてしまったら・・・と思うと、怖い。
ヴィーザラとアストリッドの身に何かあっても知らないから・・・』
Sumomoはヴィーザラの顔をジッと睨んだ。
そんなSumomoをよそに、ヴィーザラは軽く片目を閉じてウィンクをした。
ガタッ!Sumomo:ご馳走様でした。・・・またね!!
『
信じられない・・・私の中のヴィーザラのイメージが崩れちゃったよ!』
Sumomoは足早に食堂を抜けて階段を駆け上がった。
階段を抜けた先には、飼い慣らされた蜘蛛のリスを眺めるバベットの姿がすぐ見えたが
Sumomoは避けるようにして静かに通り過ぎようとするも、ハッと何かの気配に
察知したバベットは、クルリと振り向いて急いで駆け寄ってきた。
バベット:どこへ行くの?待ちなさいよ、Sumomoッ!私を無視するなんて酷いじゃない。
腕を組んでSumomoの目の前にドーンと立ちふさがった。
バベット:せっかく披露宴のためにこのドレスを新調したのに・・・
Sumomoだけだなんてズルイ!本当ならこの仕事は私が受けるはずだったのに。
ねえ・・・私も一緒に行きたいわ!
Sumomo:急に言われても・・・駄目。・・・遊びに行くんじゃないんだから。これは重要な内容の仕事なの。
失敗は許されないんだよ?
バベット:でも・・・!・・・・・そうよね・・・私が行っても足手まといよね・・・。
バベットは肩を落として、ハァー・・・と深くため息をついた。
バベット:ねえ・・・Sumomo。私が一緒に行けない代わりに、せめてあなたの役に立ちたいわ。
結婚披露宴はソリチュードの神々の聖堂の外で行われるんでしょ?
参列客が居る中での殺人は安易じゃないのよね。そこで私が考えた花嫁を殺す方法を
2つ教えてあげるわ。
Sumomo:2つも?ぜひ教えてくださいッ!バベット先輩!!
Sumomoは顔の前に両手を合わせてバベットにすがった。
バベット:えへ!それじゃあ、まず一つ目は・・・
花嫁は披露宴会場のバルコニーから参列客に見下ろすようにして挨拶をするでしょうね。
そのバルコニーの上には何があると思う?
Sumomo:バルコニーの上・・・うーん・・・石で作られた屋根があるとか・・・?
バベット:ブー!正解はバルコニーの上には壊れかけの古い像があるのよ。
これをうまく倒せたなら・・・・・・・・・・・アハハ!
彼女は足で踏み潰された蟻の気持ちがよく分かるでしょうね、きっと。
バベットの口から小さな白い犬歯がキラリと光った。
バベット:二つ目は、この矢にベラドンナのエキスをたっぷり塗ったのを使って弓矢で射るの。
これは私が貸してあげるわ。矢は一本しかないから慎重にね。
あと・・・そのままだと手が滑ってうまくいかないと思うわよ?
弓を射るのに専用の手袋があったほうがいいかもしれないからソリチュードに着いたら
すぐレディアント装具店で購入したほうがいいわ。
バベット:油断しちゃ駄目よ。焦っても何も得られないから。殺しは上手に、計画的に・・・ってね。
・・・・ところで、さっきから気になっていたんだけど、そのドレスとっても素敵ね。
買ったの?それとも誰かから貰ったもの?
Sumomo:え?あッ・・・うん。・・・これは貰ったものだよッ。
バベットの視線は一瞬にしてドレスに釘付けになり、舐めるようにしてSumomoの周りを
グルグル回りながら黒いドレスをじっくり眺めた。
バベット:ふーん・・・羨ましいなぁ~。こんな貴重なドレス滅多にお目にかかれないわ!
この世に残ってるだけ不思議でしょうがないもの。よく購入できたわね。
ドレスをプレゼントしてくれた・・・男の人?
Sumomoの目が一瞬泳いだが、平常心を保とうと必死になった。それでもバベットには、お見通しかもしれない。
バベット:ちょっと落ち着いて聞いて。驚かすつもりはないけれど・・・・・・十分注意することね。
その黒いドレス・・・呪われてるわ。
Sumomo:え・・・ッ!
バベット:・・・どこかで見た気がするわ。遠い昔・・・何百年も前の。とても古い香りがする。
・・・血の匂いがすごくする。何百年も経っているというのに、どうして美味しそうな香りがするのかしら?
Sumomo:血の匂い・・・・・・?
バベット:ええ。成熟してる甘い香りよ。恋愛すると血が甘くなるのよ。特に若い女性はね。
このドレスの血には・・・甘さの中に苦味と冷たさが混じってるわ。きっと辛い思いを抱いて亡くなったのね。
バベット:・・・でもどこで見たのかはっきりと覚えてないの。ただ・・・高貴な女性が着てたような気がするわ。
それも亡くなる直前までね。彼女はそのドレスをとても大切にしていたようね。
・・・誰かの贈り物だったのかしら。
Sumomoは背筋が凍りついた。
バベットの話を聞いていると、このドレスの持ち主にずっと見られているような恐怖に襲われてしまった。
バベット:・・・ま、私の憶測ではあるけれど結構当たるのよ。
だってこのドレスについた血が物語っているんだから。
それにしても、高級な素材と最高の技術は今でも相当な値打ち物のはずなのにすごく勿体無いわね・・・。
プレゼントしてくれた人には悪いけれど、今じゃ深遠の暁の館長ような変人しか買い取らないわよ。
Sumomo:あはは・・・変人・・・。
バベット:Sumomo・・・しっかりね。
花嫁がどんな結末を迎えるか・・・帰ってきたら、たっぷりと土産話を聞かせて。楽しみにしてるから!
そう言うと、バベットは手を振りながら持ち場に戻っていった。
――――――――――――――――――・・・
翌日。
聖域から出たSumomoは、またホワイトランの馬屋近くの馬車を使ってソリチュードまで移動することにした。
『中間地点の都市での依頼はないのかな?いつも端っこばかりで疲れちゃうわ・・・』
今回も大移動となる長旅に、少し不満を抱くSumomoだった。
御者:お・・・!カジートのお嬢さんじゃないか。久しぶりだねぇ。
すっかり御者のおじさんとも顔馴染みになってしまった。
馬車に揺られながら、外の風景を眺めていると少し寂しさを感じてしまう。
確かに晴れた日は清々しいし、心もウキウキする。・・・けれど、Sumomoは雨の日に滅多に当たらないのだ。
よく考えてみると、シセロと一緒に帰ったあの日は酷い雨だったから、彼は太陽に相当嫌われていると思った。
シセロと私を足したらプラマイゼロで曇り空の日が多くなるという結果になる。
季節的に今は薪木の月で秋に突入しているけれど、この前までは収穫の月だった。
今年で最も雨量が最大だったらしい。
いずれにしてもタムリエルの北に位置してるスカイリムには、四季を感じる場所を見つけるのは
難しいかもしれない。
・・・そんなくだらないことを考えながら暇を潰していると、いつの間にかソリチュードに到着していた。
Sumomo:ホワイトランと違って、石造りの建物が密集してるわ。
さすがスカイリムの都会だなぁ~。・・・さてと、こうしちゃ居られない。バベットの言付けを守らなくちゃ。
ソリチュードの大きな門を通過したすぐ右手の建物には、他のお店よりも一際大きな看板が掛けられていた。
近付いてみると、その大きさがよく分かる。
『ここが・・・バベットの言ってたレディアント装具店ね』
―――――――――――――――・・・
店内に入ると、最初に目に飛び込んだのはカウンターにいる店主のエンダリーだった。
エンダリー:いらっしゃい。あら、ずいぶんと可愛いカジートさんだこと。
でも・・・所詮、私達には敵わないでしょうけど。
エンダリーは自慢気に鼻で笑うと、自然とSumomoが着てる黒いドレスに目をやった。
エンダリー:・・・・・・!そのドレスは、わたくし達の店から買っていったものですわね!?
まさか、あの変た・・・いえ奇妙な道化師の知り合い・・・なのかしら?
ターリエ:それとも、怪しい関係かどちらかね。
いずれにせよ、呪いのかかったそのドレスを手放せてよかったわ。
しかも沢山の金品が転がり込んだ。私たち、とてもラッキーだったのよね?エンダリー。
エンダリー:そうねぇ。あの男のおかげで当分の間は贅沢できそうよ。
『これ、そんなに高価なものだったんだ・・・。どうしてこんなの買えたんだろう?
沢山の金品・・・?宝石とか??・・・まさか・・・ねぇ』
ターリエ:ところで、御用があって私達の店に寄ったのでしょう?さっそくだけれど、あなた何をお探しなの?
ドレスの話はあっという間に終了し、早くも商売の話に切り替わった。
Sumomo:・・・え?ええと・・・弓矢専用の手袋を探してるんですが、私の友人によると
このお店に置いてあると聞いて・・・。
エンダリー:ええ。スカイリム一のレディアント装具店に無い物なんてございませんわ。
ですけれど、丁度手袋は品切れしてますの・・・。専用とまでは言いきれないのですが、一応
鹿の皮をなめして作られた、それらしい~物はございますわよ。
お値段は・・・300G・・・・・・すごく安物ですけれど。
そう言うとエンダリーは、棚上にあった手袋を取り出して無造作にカウンターの上に置いた。
Sumomo: これが300G?値段も手ごろだし・・・いただこうかな。今着てるドレスの色とぴったり。
ターリエ:やめるなら今のうちですよ!そんな使い捨てでいいのかしら!?
数日いただければ取り寄せも可能ですよ?
Sumomo:あ・・・いえ、急いでるので。これで充分です!
・・・高級なものはカジートの私には似合いませんので・・・あはは・・・。
エンダリー:そう言われれば、確かにそうねぇ・・・。
失礼な態度の店員にSumomoは少し苛々していた。
それに、これ以上会話は続く気がしなかったので目的だった手袋を購入し、Sumomoはさっさと
レディアント装具店をあとにした。
"この矢にベラドンナのエキスをたっぷり塗ったのを使って弓矢で射るの。
これは私が貸してあげるわ。矢は一本しかないから慎重にね"バベットの教えてくれた方法で、うまくヴィットリアを殺すことができるだろうか?
弓を引いたことが無いし、いまいち自信が無い。
それに古い像をなぎ倒す怪力も備わっていないし、魔法だと発動する音で周囲に直ぐバレてしまう・・・。
『困ったなぁ・・・・・・』
トボトボと力の無い歩きで石の坂道を登っていく。しばらく歩いていても街中がやけに静かだった。
『もしかして披露宴の日程間違っちゃったのかなぁ・・・?』
なんだかいやな予感がしてきた。
小さな石のトンネルを抜けて、大きな広場に出るとそこはドール城の敷地内であり
ソリチュードの衛兵達の訓練場となっている。
その広場の奥には神々の聖堂・・・今回のターゲット、ヴィットリア・ヴィキが居るとされる披露宴会場がある。
少し覗いて様子を見てみることにしよう。
『あれ・・・!?・・・誰もいない!まさか・・・まさか・・・ッ!!』
そんな会場の様子にSumomoは慌てふためいていると、ソリチュードの街を巡回している
衛兵に声を掛けられた。
ソリチュード衛兵:そこで何をしているんだ?見慣れない顔だなぁ・・・。この街の者じゃないな?
Sumomo:はい・・・おっしゃる通りです。ですが怪しい者ではございません。
私は二人の新たなる門出を祝うために、タムリエルの南部エルスウェアーから遥々やって参りました。
・・・式はもう終わってしまったんでしょうか?
この日のために、新郎新婦へ捧げる祝福の言葉を考えてきたというのに・・・。
Sumomoは猫の特権である、可愛くて大きくて丸い瞳を潤ませながら自らの心境を切なく伝えた。
ソリチュード衛兵:う、うむぅ・・・エルスウェアーからか・・・
だったら何も知らないはずだな。
お前はそれ程悪い奴に見えないから、特別に教えることにしよう。
結婚式は明日、執り行われるそうだ。急に一日延びてしまったのだが、理由は知らない。
とにかく今日のところは何も無い。・・・安心するといい。
Sumomoは胸に手を当てて安堵した。
『時間が一日空いたことで、弓矢の練習ができるかもしれない。
あとは誰かから弓矢の使い方を教われば完璧なんだけど・・・』
ふらふらとゆっくりな足取りで聖堂前から離れようとしたとき、訓練場から大きな怒鳴り声が響き渡った。
ソリチュード衛兵:何をやっている!もっと腕を真っ直ぐ伸ばさないと安定しないぞ!
的の前で見習い衛兵達を厳しく指導してるのは、さっきの衛兵と違う別のソリチュードの衛兵だった。
どうやら弓矢について、この訓練場では一番詳しい衛兵なのかもしれない。
練習台も一つ空いていることだし、どさくさに紛れて自分も弓矢の極意を一緒に学べられたなら・・・
そんな悪巧みをしていると・・・
ソリチュード衛兵:・・・おい、そこの猫!練習の邪魔になるから離れろ!
Sumomo:ずいぶん口の悪い指導官ね!
私は帝国軍の手助けを少しでも手伝いたいと思って来たのよ?じっくり観察して
あなたの弓さばきを学ぼうと必死だったのに。それに私は猫じゃない!カジートよ!
ソリチュード衛兵:・・・あ・・・いや、今のはすまなかった。レディに対する言い方ではなかったな。
・・・しかし、そこに突っ立っていられると本当に迷惑なんだ。それに君の行為は妨害罪にあたる。
『
ドキッ!』
ここで捕まってしまったら何もかも失ってしまう。逃げるか、それとも引き下がらないでまだ粘ってみるか・・・
Sumomoは真剣な眼差しで、衛兵の目をジッと見つめた。
ソリチュード衛兵:ふっ・・・ふふ。負けたよ。君のその心意気には関心した。
その目の奥の輝き・・・見れば見るほど、私の若い頃を思い出す。
Sumomo:・・・は?
ソリチュード衛兵:よぉし!見学だけじゃつまらないだろうから一緒に練習してみるか?
・・・それならば、妨害していることにはならないだろう?
Sumomo:え?うそッ!?やった~!ありがとうございます~!頑張ります!!
『案外すんなりいけてよかった。ラッキー♪』
ソリチュード衛兵:実際に弓矢を射ることが肝心だ。何度も失敗して修正しながら少しずつ体に覚えさせる。
それがやがて成功に繋がるからな。・・・お前ら、しっかりと体に叩き込めよ!!
「はいッ!」
トスンッ!Sumomoは明日の本番に向けて弓矢の使い方を着実に学んでいった。
幸せの絶頂にある花嫁を殺すために――――――・・・
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