【第33話】錯覚か幻覚か
日が完全に落ちて、夜空を彩る星やオーロラが時間と共に厚い雲に覆われて隠れてしまった。
さっきまで穏やかだった風も、風圧で体が押されるほど強さが増してきたけれど、Sumomoは全くそれに気付かずに
精神を集中し続けた。
バベットはとうとう待ちくたびれたのか、虚ろになった目を擦っては大きなあくびをしてしまったが、諦めずに
何事もないであろう巻物に再び視線を向けた。その途端「あッ!」と耳を劈くような声を発した。
Sumomoが手に持っている巻物が突然フワリと宙に浮き、ブルブルと揺れながら青色の発光体と白い煙と一緒に
目の前に巨大なブラックホールのような渦が出来上がった。
Sumomo:・・・・・・来る!
巨大な渦が、大きくうねりを見せてそこから現れたのは、嘗ての闇の一党の暗殺者ルシエン・ラシャンスだった。
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現在の闇の一党とは全く異なったルールで生きてきた彼は、どういう経緯で死んでしまったのかは想像できないけれど
よく目を凝らせば、首に絞められた痕や肌が露出している至る所が傷だらけで、どれだけ過酷な環境下で生きてきたのかを
物語っているようだ。
ルシエン:・・・従順なる夜母の子よ。200年経った今でも、闇の一党の教義を守り崇敬しているのだな。
常闇の父も、大変喜んでいる。礼を言おう。
バベットは渋い顔をして俯き加減で目をそらしたが、Sumomoはそれとは真逆で、ルシエンの言葉を逃すまいと
しっかりと耳を傾けて聞いていた。
Sumomo:始めまして・・・Sumomoです。聞こえし者としてまだまだ未熟者ですが、今後とも・・・よ、宜しくお願いします。
ぎこちない動きで、ルシエンへ頭を垂れた。その大事な挨拶の途中で、バベットは手を伸ばしてグイグイと
Sumomoの腕を掴み引っ張ると、小声で言った。
バベット:ねえねえ!私、驚いたわ。まさかSumomoが持っていた巻物に、ルシエンの魂が宿っていたなんて。
Sumomo:・・・ルシエン?この人、ルシエンっていうの?
バベット:そうよ。まあ、Sumomoが知らないのも無理ないわね。
ルシエンは今から200年前に、仲間の裏切りによって濡れ衣を着せられて殺された伝えし者なの。
バベットの衝撃的な発言に、Sumomoは戸惑いの表情を見せ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
バベット:肖像画で顔の特徴は覚えていたけれど、本人と対面したのはこれが初めてよ。
・・・残念ながら幽霊として、だけどね。でも私は満足だわ。・・・まさかこんな形で出会えるなんて。
もしかしたらこれって運命かも!?うう~ん・・・・・・・・・見れば見るほど、なかなかのイケメンじゃない?
Sumomo: う・・・・・・うん、そうだね・・・。
バベット:あら?ルシエンには興味がないの?はは~ん・・・あの変態のことが気になって仕方ないのね?
仕方ないなぁ~も~・・・・・・・・・じゃあ取引をしましょう?
明日からSumomoはシセロと。私はルシエンと行動を共にするっていうのはどお?
あなたがガイアス・マロを殺して帰って来るまで、私はルシエンを借りてくの。これでいい?
Sumomo:もう、勝手なんだから・・・!
あのね、バベットが今思ってるほど仲は良くないし、そもそもシセロとは最近・・・あまり会話できてないもの。
バベット:ええ!?・・・・・・もうとっくにあなた達、付き合ってると思っていたわ。だってこの前、顔と顔を近付けて
チューしようとしてたじゃない。
Sumomo:はぁ!?あれはアイツが私の顔をまじまじとみていただけ!それだけ!!他に何も・・・・・・ないんだから!
完全否定したSumomoだが、バベットは何か引っかかりを感じずにいられない様子だった。
『特別な理由がない限り、そう簡単に顔を近付けたりはしないはずよね。・・・じゃあ、あれはいったい何の意味が・・・』
バベットは顎に手を当てて深く考え込んだ。その表情は真剣そのもの。
Sumomoはバベットの様子に不安を抱きつつも、"自分とシセロを無理矢理くっつけようと、また何か企んでいるのだ"と
疑う姿勢だけは崩さなかった。
そうこうしているうちに、長時間湯船に浸かっていたせいで、Sumomoの肌がブヨブヨにふやけて林檎のように
真っ赤に染まっていた。
すっかりのぼせてしまった体を動かそうにも、足がもつれて言うことを聞かず、黒いドレスを持つ手も震えておぼつかない。
まるで相当歳をくった老人のようだった。そしてその姿をルシエンは、無情な視線で追いかけていた。
脱衣場でやっと着替え終えたSumomoは、のぼせた体を冷ますために、石の階段を上っていった。その先には
ジャズベイブドウやラベンダーやリーキなど、多数の植物が植えられた畑やプランターのあるガーデニング広場へと繋がっていた。
一面を見渡すと、畑近くにある木のベンチにバベットとルシエンの2人が座り、何か話し合っている。
バベット:・・・あら、終わった?ずいぶんと着替えが遅かったじゃないの。
ところで、ルシエンと今後について話し合っていたのよ。今までのあなたの業績や、シセロの・・・・・・
夜母に対する忠誠心は、とても立派だと褒められたの。私もあなたたちのメンバーでいて鼻が高いわ!
えっと・・・・・・あ、ありがとう・・・。
頬を少し紅潮しながらも、感謝の気持ちを伝えるバベットの姿に、Sumomoは自然と顔が綻んだ。
Sumomo:私がここまで成長できたのも、バベットのおかげでもあるし、逆にこっちのほうが
お礼を言わなきゃいけない立場だわ。・・・だって私にとって、闇の一党の大先輩はバベットなんだもの。
バベット:えへへへ・・・!
バベットは照れくさそうにして笑うと、再び顔を見上げた。
バベット:Sumomo・・・あなたの進む道を、一瞬邪魔したくなってしまったけれど・・・仕方ないわね。
しばらくは寂しくなるけれど・・・・・・大学頑張ってね。でもこれだけは言っとくわ。
私よりも一番寂しがるのは・・・シセロかもしれない。だって、シセロとおしゃべりする時にいつも感じていたもの。
会話する内容も、夜母は勿論・・・それ以上にあなたのことばかり話すのよ。
・・・だから、旅立つ前にきっちりと大学のことを話して、本人を納得させておくべきだと思うわ。
アイツ・・・見かけによらず神経質な性格の持ち主だし、あなたが突然いなくなってしまったら、たぶん・・・発狂するでしょうね。
根気よく説得しないと。後で何をするかわからないから、気をつけるのよ。
Sumomo:うん・・・わかった。何としてでも理解してもらわなきゃ。本人が納得して、私を笑顔で
見送ってくれるかどうかは別として・・・。
少し不安があるけれど・・・もう決めたからには、後には引けないもの。
Sumomoはこれまでの夢を通じて彼の闇を垣間見てきたが、それはまだ序盤にすぎない。
これからも彼の心の深部まで知ることになると思う・・・・・・。
一番近い存在と思っていたシセロのことを、まだ疑っている気持ちがきっと心のどこかに残っているから
この間の事も、彼との距離を自ら遠ざける行動に出てしまったんだと思う。
・・・彼の優しさは本当の姿なのか?と、疑念を抱いてしまう自分を攻めたりもした。
脅える心を奮い立たせて前進しなければ、きっとシセロに心配を掛けてしまうだろうし、せっかくオラヴァが
親切に助言してくれたことも無駄になってしまう。Sumomoはいつもの癖で溜め息をつい、漏らしてしまった。
憂鬱な表情を浮かべたSumomoの横顔を、ずっと真剣に観察していたバベットは何かを思い出したのか、やがて口を開いた。
バベット:・・・あのね、うまく表現できないけれど、あなたとしゃべっていると
遠い昔に、どこかで会ったことがある人のような懐かしさを感じるのは、私の気のせいなのかしら?
最近のあなたって・・・全然カジートに見えないときがあるのよね。ふと、人間らしいなって・・・。
それが関係してるのかも?
突然奇妙なことを言い出したバベット。Sumomoはつい、フフっと苦笑いを浮かべて言い返した。
Sumomo:生まれてから今日まで、ずーっと獣人カジートのまま。どこが人間だっていうの?
鏡で毎日自分の顔を見てるけど、特に変わったところは見当たらなかったもの。
バベット:本当よ!うっすらだけど・・・。シセロがあなたの顔をジロジロ見ていた理由は、きっとこれに間違いないわ!
――――――――――――――――・・・
「・・・最近のシセロ、なんか変・・・。恋人同士じゃないのに、至近距離まで顔を近付けたり・・・」
「顔を近付けたのはちゃんと理由があってねぇ・・・」
「顔を近付けたのはちゃんと理由があってねぇ・・・」
・・・―――――――――――――まさか、嘘でしょう?
バベット:私が見たこの現象も、あなたのそのドレスと深い関わりがあるんじゃないかと思うの。
初めてそのドレスを見たとき、不思議な感覚に襲われたわ。すべては血の匂いが私に語りかけてくるんだもの・・・。
悲しみ、苦しみ、儚さ、そして怒り・・・色んな想いが激しくぶつかってくる。
このドレスに宿る彼女の呪いを解き放つには、苦難が待っていると思うのよね・・・。
あなたがどれくらいそれに耐えられるのかしら・・・・・・?とても・・・心配になるわ。
・・・・・・それでも私はこのドレスを手放せなかった。
なぜなら単純にシセロから笑顔を奪いたくない、と思っているから。
黒いドレスを私にプレゼントしてくれた時のシセロの笑顔は、心から溢れ出ていた気がする。
今思うと、あの時の私の精神は不思議と癒されていたの・・・。
私にとっても彼にとっても幸せでいられるように、いつも彼が笑顔で満たされる日が来るように、私はこのドレスを
脱ぎ捨てたくないと思った。ただそれだけ・・・・・・。
今までのあの人の笑みは、作り笑いのような気がするから・・・だから本当のあの人の幸せそうな顔を、いつか見てみたい。
あの人に興味が湧いてきたのは、いつの頃からかは分からないけれど・・・気が付いたら、私の頭の中身は
シセロでいっぱいになっていた。
皆が言うシセロが変わり者なら・・・シセロのことが好きな私も、相当変わり者なのかもしれないね・・・。
バベット:はぁ~・・・。シセロのことが心配でたまらないのね。もう私から何を言っても無駄なのね。
見捨てるつもりはないけれど、私にはその呪いを解く力はないから、あなたの身にこれからどんなことがあっても
助けることはできないわよ。
再びブルブルと寒気が復活すると、鳥肌が全身に行き渡り毛が逆立った。
この寒気もバベットが見たという例の女性の姿が、私のそばにいるのかもしれない・・・。
・・・想像するだけで益々、血の気が引いてくる。
バベット:あなたが聖域から離れると、当然シセロは孤独になるわ。
これから何が起きるのか私には未来を当てる力は無いけれど、何となく聖域の今後が不安でしょうがないのよ・・・。
聖域の未来・・・・・・?
確かずっと前にもこれと同じニュアンスで、私の夢の中でガブリエラが現れて呟いていた・・・。
"自分の未来が少し見えるの・・・近い将来私は死ぬわ。家族のことはわからない・・・でも、虚無に深い闇が渦を巻いていて・・・・・"
未来を予想できても、それが必ず現実に繋がるかはSumomoにも夜母にもわからない。
強いて言うならば、運命を司る神にしか知り得ないことだろう。
「聖域にもしものことがあったら、真っ先に私達のところへ必ず飛んで帰ってきて!」と、バベットと約束を交わした。
明日からはいよいよ、ガイアス・マロ殺害計画を実行する予定だ。
これが終わったら、ファルクリース聖域には一ヶ月ないし一年先まで帰ってこれなくなるかもしれない・・・。
・・・寂しさと少しの不安を残しつつ、Sumomoは床についた。
夜空には無数に散りばめられた星が、秋冷の凛とした寒さによって一際輝きを増し、Sumomoの目に美しく映って見えていた。
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- 2015-08-10 :
- Sumomoの物語
【第32話】秘密の温泉宿にて
"魔法大学へ行くことに決めました。なので任務を終えたら、少しだけ聞こえし者をお休みします"
これを口頭で伝えたほうが、彼は信じると思っていたけれど、結局それを伝えるタイミングを
逃してしまった私は・・・臆病者だ。
ベッドで小さくうずくまりながら、今日起こった出来事を何度も思い出した。
そんな一人反省会の中、Sumomoの記憶には幾度となくシセロが現れてきた。
目を閉じていると、彼の台詞が頭の中で反響する。
「・・・・・・体がとても冷えているね」
「ほんの数日前になるんだが、バベットが聞こえし者の体をとても心配していたんだ。
ファルクリースからほんの少し東よりの離れた静かな場所に、秘密の温泉があるらしい。
・・・本人は聞こえし者と、とても一緒に行きたがっていた様子だったよ」
シセロだけじゃなく、バベットも私の体の調子を心配して気遣ってくれていたんだ・・・。
『温泉かぁ・・・』
できればバベットに今、私の思ってること全部相談したい。・・・そして胸張って魔法大学に行けるよう
自分の気持ちを楽にしたい。
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夢から覚めて閉じていた目をそっと開けると、Sumomoが寝ているベッドのすぐ横で、バベットが腕を組んで
心配した顔で立っていた。
Sumomo:・・・わッ!
バベット:Sumomo・・・・・・あなた、本当に大丈夫?目が死んでるわよ?
Sumomo:え・・・ッ!だ、大丈夫だってば!
・・・・・・バベットにはあまり関係ないことだし、自分で解決するの。だから私のことは・・・ほっといてよ。
Sumomoはまるで子供のように小さく丸まり、そっぽを向いた。
バベット:放っておけるわけないじゃない!・・・闇の一党の家族だからこそ、あなたが苦しんでる姿を見るのは辛いのよ。
悩んでるならせめて私に相談してみるべきじゃないの?一人で抱えていたら、そのうち病気になっちゃうでしょ!?
バベットはいつもより厳しい口調で言った。
アストリッドと口論があったのは否定できないけれど、バベットの気持ちとしては、可愛い妹のような存在のSumomoを
見捨てることはできなかった。
バベット:ふう・・・つい、怒鳴っちゃったわ・・・ごめんなさい。
ここじゃ、話したいことがあっても気軽に話せないことだって沢山あるわよね・・・。
・・・そうだ!・・・Sumomoを一度連れて行きたいと思ってる場所があるのよ。そこでお話しましょ。女同士でね。
Sumomo:・・・ひょっとして温泉のこと?
バベット:そうよ。さてはシセロから話を聞いたのね?・・・ふふっ。まったく、あなた達ったら本当に仲がいいのね。
Sumomo:・・・・・・・・・そう・・・なのかな?
―――――――――――――――――――――――――・・・
ファルクリースを通り抜けてホワイトランへ続く道をしばらく歩くと、左に反れる小道が長く伸びた草に隠れてそこで途切れていた。
バベットは小さな手を目一杯広げて、草をかき分けながらさらに奥へと進んだ。
そして、目の前に現れた大きな木の門扉を馴れた手つきで開門して入っていく。
バベット:私だけの秘密の温泉宿。・・・ほら、湯気が見えるでしょ?Sumomo、見て!あそこよ!あそこ!
バベットが指差す方向へ顔を向けると、草に囲まれた古い石造りの建物と、そこから湯気がもくもくと立つ大きな温泉が
確かに見えた。
バベット:ここは私にとって唯一の癒しの場所の一つなの。
勿論・・・こんな荒れた土地に温泉があるなんて、闇の一党のメンバー・・・誰も知らないと思うわよ。
知っているのはここに居るあなただけなんだから。
バベットはフフンと自慢気に鼻を擦っていたが、内心ドキドキしていた。
Sumomo:すごいね!・・・いつからここの所有主になったの?
バベット:・・・・・・だいぶ昔ね。ここの主は元々ノルドのものだったから。でも私が奪ったのよ。
Sumomo:え・・・ッ!?・・・ちょ、ちょっと待って!奪ったって・・・どういうこと!?
バベットは突然、逃げるようにして走り出した。それに続いてSumomoもバベットの後ろを追いかけていき、2人は
温泉が湧き出る場所まで一気に突っ走った。
バベット:ハァハァ・・・・・・そのノルドはね、私を誘拐して売り飛ばそうと企んでいたのだけれど、ある晩に吸血して殺したの。
そしてこの土地を奪ってやったのよ。
大人1人殺すくらい、私だってやる気になれば簡単なことだわ。アイツめ・・・思い知ったか!キャハハハハハハハ!!
静かな空間にバベットの強気で幼気な笑い声が響き渡る。
人を死に至らしめることは闇の一党の一員としての誇りであると同時に、何よりも" 自分はここにいる"という
バベットなりの強い主張が、ここの温泉宿の主を死に追いやるきっかけになったのだった。
今の闇の一党のやり方に複雑な心境を持ちながらも、これまでにないくらい多くの依頼主の要望を十分に
満足させてきたと思うし、今日まで闇の一党のメンバーとの熱い信頼関係や絆を手に入れることができた。
Sumomoは今回の任務を一つの区切りとして、闇の一党を一時休止することに決めていたが、唯一仲が良いと思っていた
シセロにさえその旨をうまく切り出すことが出来なかった。
だから今度こそ、このチャンスを逃さないようせめてバベットには話そうと思う。
Sumomo:・・・日が沈むのが早くなったね。暦の上ではもう秋かあ・・・。
ところで、一つ疑問に思っていたんだけど・・・吸血症にかかった人間は太陽の光に弱いはずでしょ?
どうしてバベットは平気なの?
バベット:ふふ・・・300年も吸血鬼してるのよ?免疫が付いたっておかしくないわ。
でも・・・未だに熱いお湯に触る事すら苦手なのよね。知ってた?吸血鬼は太陽の光もそうだけど熱にも滅法弱いんだってこと。
Sumomo:うん、何となく・・・。それに何かで読んだことあるんだけど・・・ニンニクにも弱いんでしょ?
Sumomoの問い掛けに、バベットは目を丸くした。
バベット:え・・・!?ニンニク・・・・・・それ、誰かが作った迷信だわ。確かにニンニクのあの強烈な臭いは好きじゃないけれど・・・
食べるのは平気よ。とにかく、吸血鬼である私は特に熱には弱いのよね。
だからSumomoと一緒にお風呂に入れないのはとても残念だわ。でもこうして一緒に温泉宿に来られるだけで
私、とっても嬉しいの。・・・沢山お話して食べて飲んで・・・明日の朝までここで寛ぐといいわ。
Sumomo:えッ・・・でも・・・・・・。
バベット:その反応は何?今更遠慮しないでよ。何度も言ってるけど、あなたは私の大切な仲間の1人なんだから。
危険な目にあったり、悲しんでる姿を見るのは私にとっても辛いのよ。・・・安心して。そしてゆっくりしていって。
Sumomo:あ・・・ありが・・・とう・・・・・・。
バベットの優しさが心に沁みて、一層Sumomoを苦しめた。
・・・だが何であれ、今更大学のことを諦められるはずがなかった。Sumomoの魔法使いへの強い意思は固く、今は
どんな誘惑にも心を突き動かすのは難しい。
バベットは、温泉が湧き出る直ぐ近くのカウンター席へ向かって歩き出した。
3脚並んでるうちの真ん中の椅子に腰を掛けると、カウンターに置いてある炭酸入りのハチミツ酒を取って
慣れた手つきでコルクを抜き、ジョッキに注いだ。
ハチミツ酒の小さな泡が、ふつふつと繰り返し現れては消えるのを眺めながら、物思いに耽った。
バベット:それにしてもあなたが羨ましい。私も本当は大人として見られる女性でありたかったわ。
世間からはどうしても、子供としか見られないのよ・・・中身は成長を遂げた大人なのに。
生理も始まらないうちに吸血症になってしまったのが一番の失敗ね。恋愛をして、結婚して、赤ちゃんを産んで・・・。
大人の女性になれないまま一生、生きていかなきゃならないの。
バベットはそう言って唇を噛み締めると、左手に持っていたハチミツ酒を一気にのどへ流し込んだ。
Sumomo:もうやめたほうがいいんじゃない?そんなに飲んじゃ体に・・・・・・。
バベット:大丈夫よ。私は不死身なんだから。
・・・傷を負えば癒されるし、たとえ焼け死んだとしても、灰から元の体に再生されてしまうのよ。
吸血症は私にとって、一番恐ろしい病だと思うわ。
バベット:吸血症にかかってから300年の間に、友人や知り合いは次々と私の周りから姿を消していったわ。
生きていて辛さを感じたり、孤独と戦っていたのは、それだけに留まらない。
・・・私が言いたいのは、ごく普通の人間でありたいだけ。私もあなたのような限りある命でいたかったの。
いつでも死ねたらな・・・って、ずっと心の中で願い続けているわ。
バベットは孤独を何度も経験した・・・自然と"助けたい"と思う気持ちが、Sumomoの心の中に芽生えてくる。
それにSumomoにとってはバベットは大切な親友の1人。見捨てるなんて到底できなかった。
バベット:・・・ねえ、Sumomoにはわかる?大切な人が、自分より先に亡くなることの辛さと孤独が。
ほんの少しでいいの。私のこの気持ちを理解してくれるだけでも、胸のつかえが取れる気がするわ。
・・・はぁ~・・・・・・吸血鬼にも効くような・・・一瞬じゃなくてもいいから、命を奪えるくらい強力な魔法があったらいいのにな・・・。
この言葉にSumomoはハッとした。
今なら魔法大学のことをバベットに打ち明けられるチャンスかもしれない・・・と。
Sumomo:あ、あのね・・・・・・私、魔法が得意でしょ?
もしかしたら吸血症を解く方法・・・ウィンターホルドの魔法大学に行けば、そういった資料があるかもしれない。
バベットの吸血症を治すためにも今よりも、もっと沢山の知識をつけないと駄目だと思うの。
バベット:そうね・・・・・・・・・このまま聖域で過ごしていても、新しい魔法の知識は得られないものね。
フェスタスは暗殺破壊魔法には長けているけれど、蘇生や死霊術のことは一度も聞いたことがないし。
研究漬けで暇がなさそうだし・・・もし仮に知っているとしたら、とっくに吸血症を治してもらっているわ。
夕日の差し込む光が消えていくまで、2人は沈黙した。
バベットは瞬き一つせずに一点を見つめて、ずっと何かを考え込んだ。
Sumomoはバベットが口を開くまで、夕日の赤い色が青黒く変化していくのをただ眺めているだけだった。
バベット:あ、あのね・・・もしもSumomoが吸血症に効く魔法を会得したら、最初に私に試してくれる?
Sumomo:・・・もちろん!
強張った表情が一気に明るくなり、何かが花開いたように目を輝かせた。
Sumomo:実はね、大学に行きたいと思い始めたのは闇の一党に入ってしばらく経ってからのことで、ある占い師さんの助言で
魔法大学へ行く願望がグッと強くなったの。それで今回の任務が終わったら、しばらくはみっちり猛勉強しようと思っているの。
バベット:・・・あら?ずいぶんと急な話ね。それをどうして早く私に言ってくれなかったの?
・・・もしかして、聞こえし者の立場としての責任を感じて言えなかったとか?
Sumomo:それも一理あるし・・・勢いに乗ってきた今の状況を崩したくなかったからかな。
順調にうまくいってる今だからこそ、余計言い難くなったのもあるし・・・とにかく色々あるのよ。
バベット:ふ~ん・・・・・・。あなたと最も親しいと思ってたシセロよりも先に、私に教えてくれるなんてオカシイと思っていたけれど・・・
まあ深く追求するのも、あなたのプライバシーに触れることになるだろうし・・・やめとくわ。
長時間立ったまま冷たい秋の風に当たっていたせいで、肩がひんやりとしてきた。
Sumomoがブルッと身震いさせていると、バベットは温泉の湯に浸かるように促した。
黒いドレスを脱いで丁寧にたたみ、その上に水に濡れないように巻物をそっと置くと、紫色の怪しい何かが放出された。
巻物がまるで生きているかのように、私の行動に反応してくる。
バベット:ねえ・・・その巻物とっても古いようだけど、誰かから貰ったもの?
Sumomo:アストリッドよ。・・・・・・花嫁を殺したときの報酬なの。
これはとある闇の錬金術師が偶然発見したもので、闇の一党の伝説的人物を召還できるらしいの。
バベット:へえぇ・・・!伝説的人物っていったい誰のことかしら?
召還できるというのなら・・・もうこの世には、生身の体が存在していないんでしょうね。
どんな人だったのかな?見てみたいなあ~・・・。
・・・ねえ、Sumomo?試しにその巻物をここで使ってみなさいよ。私がそばで見ててあげるから。
Sumomo:だ、駄目!・・・達人レベルの巻き物を、素人の私が召喚できっこないもの。
もし失敗したらどうなってしまうのか、想像しただけでも怖いし・・・・・・足がすくんじゃうわ。
そう言うと顔半分まで湯船に浸り、口からブクブクと泡を吐き出した。
そんな嫌がるSumomoをよそに、バベットは巻物を手に取り強引に押し付けようとする。
Sumomo:ヤダヤダ!・・・絶対無理!無理なのー!
子供が駄々をこねるような仕草をすると、渡された巻物を素早く床に置いて後退りした。けれどもバベットは諦めなかった。
Sumomoに近寄って腰をかがめると、急に真顔になって優しく囁いた。
バベット:何度も困難を乗り切ってきたあなたなら大丈夫よ。失敗を恐れていたら、何もできないわ。現在も、これから先も・・・。
それにあなたが魔法大学へ行くのなら尚更、肩慣らしに丁度いいと思うわ。
これを試練だと思ってやってごらんなさい。無事召喚できたなら、あなたを・・・魔法大学へ行くことを、私は絶対に
引き留めたりしないから。
Sumomo:・・・・・・え?
バベットには魔法大学へ行くのを引き止める気は全くないと、Sumomoの勝手な思い込みが今の言葉で覆された。
どうやらバベットは"引き止めておくべきだった"と後悔しないように、ここでSumomoの実力がどれ程なのかを見極めてから
魔法大学へ送り届けるか否かを決めることにしていたようだ。
闇の一党に、こんなにも仲間を身近に思ったことは、シセロ以外にいないと思っていた。私の中で、真のリーダーは
アストリッドよりも寧ろ、バベットなのかもしれない・・・。
私はバベットの言う事に耳を傾けると、再び巻物へ視線を集中させた。
Sumomoは深く呼吸を整えると、意を決して巻物を手に取り、目を瞑って念じ始めることにした―――――。
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- 2015-05-18 :
- Sumomoの物語
【第31話】この任務が終わったら・・・
――――――――――――――――――――・・・
ああ・・・・・・またあの夢を繰り返し見ているの?
大きな目の紋章が印象的な魔法大学の建物・・・。自分の進みたい道を歩けたら、どんなに幸せか。
ずっとここで足踏みしたままじゃ何も始まらない。自ら道を切り開き、前に突き進まなきゃ・・・!
あの占いお婆さんがアドバイスしてくれたように、私は魔法大学に行く!誰が止めようと・・・絶対に行く!!
決めた・・・決めたの・・・!ほんのちょっとだけの寄り道だよ?怒らないでね・・・・・・シセロ。
私の人生なんだから・・・。
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・・・――――――――――――――――――――――――――・・・
「・・・・・・・・・愛しているよ、アリサンヌ」
「ああ・・・また心が蝕まれそうだ。孤独に耐えられそうにない。
今は亡き聞こえし者・・・この先の闇の一党はどうなるんだ?私はこれからどうしたらいい?」
「・・・・・・ククク・・・夜母よ。私が相応しくないというのなら、いったい誰だというのだ・・・?」
「・・・アリサンヌの魂が常闇の父の元へ旅立ってから、もう12年4ヶ月と10日が経ってしまった・・・。
母の願いを叶えることを優先させ、私達の新たなる聞こえし者を見つけなければ・・・・・・」
「・・・・・・・・・愛しているよ、アリサンヌ」
「ああ・・・また心が蝕まれそうだ。孤独に耐えられそうにない。
今は亡き聞こえし者・・・この先の闇の一党はどうなるんだ?私はこれからどうしたらいい?」
「・・・・・・ククク・・・夜母よ。私が相応しくないというのなら、いったい誰だというのだ・・・?」
「・・・アリサンヌの魂が常闇の父の元へ旅立ってから、もう12年4ヶ月と10日が経ってしまった・・・。
母の願いを叶えることを優先させ、私達の新たなる聞こえし者を見つけなければ・・・・・・」
――――――――――――――――――――・・・
Sumomo:・・・ッ・・・うぅ・・・・・・。
シセロの強い感情と共に過去の情景が夢の中に現れ、一気に悲しみに襲われたが、同時に腹立たしさも
生まれていた。
私は・・・嫉妬している。
なぜ嫉妬しているのか、もう自分ではわかっていた。
人を笑わせてくれるところ、本当は従順で優しく思いやりがあるところ・・・どうしても嫌いになんてなれなかった。
それどころか、シセロに対して有らぬ感情を抱いてしまっている・・・。
・・・でも、夢で見たアリサンヌという女性の話した内容が事実だとしたら・・・?
この夢はもう何十年も前のことなのに・・・なぜか昨日のことのようで・・・・・・手が震えてしまう。
辛いだけなのに、なぜかあの先を見てみたいと強く願ってしまうほど、シセロのことが気になっている・・・。
ただジッとしていても、私が眠りにつけば何かしら夢の中の話は確実に進行していく。
・・・怖くてたまらないけれど・・・知りたい・・・!
聞こえし者としての威厳を大事にするとか全然そんなんじゃなくて、これは私個人の問題だから。
現在だけじゃなく、未来のことも踏まえてシセロのことをもっと知っておくべきだと思うの。
・・・それがたとえ目を背けたくなるような光景だったとしても―――――――――・・・。
・・・――――――――――――――――――――――――――・・・
バベット:あら?その目は・・・いったいどうしたの?泣き腫らしましたって感じね。いつものことだけど・・・。
そんな様子じゃ、この前約束した土産話も聞けそうにないわね。
Sumomo:・・・ごめんね。
バベット:アストリッドと何か揉め事したんでしょう?早めに修復しないと後々大変なことに繋がるわよ。
ああ見えて結構、気難しい性格だから。
・・・ところで、ガブリエラがあなたに話があるみたいよ?なんでも次の依頼とか。
気持ちが落ち着いたら行くといいわ。
Sumomo:・・・・・・・・・。
もちろんアストリッドにきついことを言ってしまったのは反省している・・・。
でもシセロのことを頭ごなしに毛嫌いした態度をとるところが、唯一あの人を尊敬できない部分でもあるの。
シセロは何も悪いことはしてないと思うし・・・寧ろ闇の一党の伝統を守り、古い仕来りを皆に伝えようと
頑張っている・・・。
けれど・・・・・・聖域の今の状況を考えると、シセロの努力も最初から無駄だと私にも見てとれるし・・・
アストリッドの心を動かすことは、ほぼ不可能に近いもの・・・。そして、彼女の周りにいる人達の絆も強い。
シセロとアストリッドの仲を良い方向にもっていくことは、未来永劫無いかもしれない。
互いにプライドも高いし、一度決めたら考えを曲げない。まるで水と油のような交わらない性質を持っているのよ。
『ああ・・・・・・もう・・・・・・駄目だよ・・・・・・。考えすぎて頭がパンクしそう。息が詰まりそう・・・・・・。
しばらくここから身を引いたほうが、楽になれるかも・・・・・逃げてると思われてもしょうがないよね?
・・・・・・もう疲れちゃった・・・・・・』
実際に私がしばらくここを離れて魔法大学へ入学することが決まったら、シセロは止めてくれるかな・・・・・・?
『・・・・・・・・・うゎ!』
・・・少し期待してしまった自分が・・・とても恥ずかしい・・・・・・。
―――――――――――――――――――――――・・・・・・
バベットと別れてしばらく経った後、ガブリエラの元へ向かったが、Sumomoの足取りはとても重かった。
それに、いつもより寒気がして体全体が宙に浮いたような感覚だった。
ガブリエラ:親愛なる姉妹よ。待っていたわ。
あら・・・なぜ浮かない顔をしているの?それに・・・精神の乱れを感じる。・・・とは言え、なるべくなら直ぐに
次の任務をこなさなければならないわ。一回しか説明しないから、私の話をしっかり聞いてちょうだい。
Sumomoは意識が不安定な中、これだけは思った。・・・この口調はまるでアストリッドにソックリだと。
ガブリエラ:皇帝がスカイリムへ来るのが確実なら、保安機関であるペニトゥス・オクラトゥスは
すぐに準備を始めなければいけないでしょうね。警備はマロ指揮官が担当しているわ。
・・・昨夜、アストリッドと私は話し合って、指揮官をつぶす計画を立てたの。
あなたは指揮官の息子、ガイアス・マロを倒してきて。
彼が死んだら、死体に皇帝の暗殺計画に関わったという偽の証拠を握らせるのよ。
ガブリエラは、アストリッドが作った偽の手紙をSumomoに差し出した。
Sumomo:これを死体に?うまくいくかな・・・?前回はヴィーザラが助けてくれたおかげで
成功したようなものなのに・・・。
ガブリエラ:今までの自分がやってきた行動を振り返ってみれば、今回の任務は楽勝と言えるわ。
指揮官は護衛も付けずに、たった一人でスカイリムの街を一つずつ巡回して、安全性を確かめることに
なっているのだから。・・・だからあなたは、心置きなくマロを簡単に殺せるんじゃないかしら?
『誰にも見つからないような場所を事前に決めておかないと。
皇帝に近い人物だと思うと、急に怖気付いちゃったけれど・・・ガブリエラの言う通り、なんとか
やれそうな気がする・・・』
Sumomo:・・・・・・うん。私・・・頑張ってみる。
ガブリエラ:あなたは・・・ヴィキ殺しの一件で、闇の一党がもう何世紀も体験したことのない冒険へと
私達を導いてくれたのよ。皇帝の暗殺という冒険へとね。今ではこの闇の一党に無くてはならない
存在の一人だと、少なくとも私は思っているの。
Sumomoは、ガブリエラの言葉を聞いて少し胸が痛んだ。
この任務を終わらせたら、聖域から離れてしばらく自分の希望してた魔法大学へ行くと、ついさっき
誓ったばかりなのに・・・。
ガブリエラ:実は今回の計画はほとんどアストリッドが立てたようなものなのよ。
私だけが思っていることかもしれないけれど、アストリッドは殺害計画を企てるのが天才だわ。そして
私達を正しい方向へと導いてくれてる。彼女には感謝しきれないくらいよ。
・・・さあ、出発の準備をして。彼の魂をシシスに捧げてきてちょうだい。健闘を祈っているわ。
アストリッドの周りの人達は皆、今も彼女を信頼し褒め称え、固い絆で強く結ばれている・・・。
それを壊してまで、古い仕来りを伝えないといけない?
シセロが正してるのは間違いではないけれど・・・でも、もう・・・・・・。
・・・――――――――部屋へ戻る途中、通路の奥から誰かがやってきた。
コツコツと音を立てながら姿を現したのは、紛れもなくあの人だった。Sumomoはピタリと足を止めると
少し震えた声で言った。
Sumomo:シ・・・セロ・・・・・・?
・・・今一番会いたいけれど、会いたくない人。その人が今、私の目の前にいる。
私がこんな複雑な気持ちになっているのは、やっぱりあの夢の影響なのかな・・・?
不意にシセロはSumomoの腕をそっと掴んだ。
シセロ:聞こえし者・・・?顔色が優れないね。それに・・・・・・体がとても冷えているよ。
彼に触れられると、反射的にビクッとしてしまう。苛立ちと恐怖にかられてしまう・・・。
無意識に自分の気持ちとは逆の行動をとってしまう体が・・・嫌になってくる。
Sumomo:ありがとう・・・心配してくれて・・・。
シセロ:勿論さ。"私の聞こえし者"・・・だからねぇ。
彼の一言一言が、別な意味で奇妙に聞こえてしまう・・・。
あの夢のことで、私が意識しすぎてるせいなんだろうな・・・・・・きっと・・・・・・。
私が人の心の中や過去を読み取り、夢に映す能力は確か、シセロは知らないんだっけ・・・。
この特殊な能力があるのをシセロが知ったら、本人はどういう反応をするんだろう?
Sumomoはシセロの目をジッと見た。
―――――――彼の目は正直に心の奥まで私に伝えてくれる。
優しさと、幼さと、孤独に満ちた、深くて暗い色をしている。
それよりもさらに深いところまで探っていくと、微かに"悲嘆的な感情"が見えてくる・・・それはもしかして・・・
あの人のことを未だに忘れられないの?
以前の聞こえし者・・・・・・"アリサンヌ"という人のことが・・・。
シセロ:聞こえし者は、いつから私のことをそんな怯えた目で見るようになったのだ?
私が聞こえし者に、何か不都合なことをしたっていうのかい?・・・あるとすれば、それが何なのかを
詳しく教えてほしい。
掴まれた腕をそっと払い除け、Sumomoはシセロとの距離を広げた。
Sumomo:・・・最近のシセロ、なんか変・・・。恋人同士じゃないのに、至近距離まで顔を近付けたり・・・
手を握ったり・・・少なくとも私の中ではありえないことだよ。
シセロ:・・・悪気があってやったわけではないんだ。顔を近付けたのはちゃんと理由があってねぇ・・・。
これについては、また今度詳しく話をするよ。・・・とにかく、私とヴィーザラが顔を合わせた時のことを
思い出してみてほしい。
・・・――――――聖域の大広間で、私とヴィーザラは会話をいている真っ最中だった。
急にシセロが間に割って入ってきて、私の手を握り締めてきたときのこと・・・あの日のことはよく覚えている。
そしてあの時見せた、シセロの鋭い眼光はとても・・・恐ろしかった。
シセロ:私が無理矢理、聞こえし者の手を掴んで連れて行った理由はね・・・聞こえし者を
"護りたい"という気持ちが強まったからだ。
聞こえし者は"皆の聞こえし者"だが、この聖域はまだ整っていない。不完全だから・・・私は認めたくないんだよ。
私は素直に嬉しかった。でも少し引っ掛かりがある・・・。
Sumomo:・・・私のことを心配してくれるのは、とても嬉しいけれど・・・あなたの行動は少し
過剰すぎるんじゃない?
シセロ:・・・そうかもしれないね。私の元々ある支配欲が強いせいだろう。
・・・そして聞こえし者を護る気持ち以外に、別な感情があったと思う。
Sumomoはドキドキしながらシセロに問いかけた。
Sumomo:別な感情・・・・・・って・・・?
シセロ:・・・あれはたぶん・・・・・・私の嫉妬かもしれないね。
守りし者は夜母を守ることも仕事だが、聞こえし者を護るのも当然の行いなのだ。したがって聞こえし者が
古い仕来りを守ろうとしない連中と関わっているのを、簡単に見過ごすわけにはいかないんだよ。
口より先に体が動いてしまった私の悪い癖だね・・・。聞こえし者には私の"焦った姿は格好悪い"と
目に映ったかもしれない・・・。
Sumomo:・・・・・・・・・。
『私の思い違い?それとも上手くかわされてしまったのかな・・・?』
自分の思っていた答えと違っていたので、Sumomoは少し顔が熱くなった。
シセロ:・・・しかし、私の行動が過剰だなんてねぇ。聞こえし者が、そこまでハッキリ言うとは思わなかったよ。
少しグサリと胸に突き刺さったような感覚だ。フフフ・・・なるほど。
私の今までの行いは・・・聞こえし者にとって迷惑だった、ということか・・・・・・。
顰笑な表情を浮かべたっきり、シセロの口からそれ以上は出てこなかった。
ここはあえて言葉を選んで慎重に行動しなければ・・・と、軽率な内容をシセロに投げかけてしまったことに
Sumomoはとても悔やんだ。
すべてはあの後味の悪い夢のせいだと思ってしまう・・・。
その場の空気が重くのしかかると、もう一人の悪魔が私に『ここから逃げ出そう』と誘惑する。
『シセロをここに残して・・・・・・自分だけやりたいことをしに行くのは、私のワガママなのかな・・・?』
"さよなら"を言いかけたとき、シセロは何かを思い出したようにしてSumomoを引き止めた。
シセロ:・・・そうだ。ほんの数日前になるんだが、バベットが聞こえし者の体をとても心配していてね。
・・・なんでも、ファルクリースから徒歩で数分の場所に秘密の温泉があるらしい・・・。
本人は一緒に行きたがっていた様子だったよ。
聞こえし者の体も冷え切っていることだし、丁度いいんじゃないか~?できれば、私も護衛としてお供を・・・
と思っていたんだがねぇ・・・。
瞬き一つせずに、シセロはSumomoの反応を窺っていた。
そんなシセロの様子にSumomoは『これはシセロのいつもの軽い冗談だ』と思った。
Sumomo:わかった。教えてくれて・・・ありがとね。
それだけを言い残して、シセロの元から離れた。
"・・・・・・・・・私、しばらく聞こえし者をお休みしたいんです・・・"
これを一番最初に伝えるつもりだったのに、なぜか勇気が出なくて、怖くて・・・・・・ごめんなさい。
私は静かに、この聖域を去ることにしたの。
・・・この任務が終わったら・・・・・・・・・。
...続きをたたむ ≪≪
- 2015-03-16 :
- Sumomoの物語
【第30話】愛は甘美な追憶となって・・・
・・・―――――――――――――――――――・・・
・・・・・・あああ・・・・・・ああッ・・・・・・あッ・・・!
・・・はぁはぁ・・・もっとッ・・・・・・深く・・・・・・
・・・・・・あなたをもっと・・・近くに感じたいの・・・・・・ッぁああッ・・・・・・!!
・・・はぁはぁ・・・もっとッ・・・・・・深く・・・・・・
・・・・・・あなたをもっと・・・近くに感じたいの・・・・・・ッぁああッ・・・・・・!!
――――――――――――――――――――――・・・
タンスの後ろにある隠し扉のさらに奥の部屋で、彼らは何かの獣のように濡れた体を激しくぶつけ合い
今まで溜め込んでいた欲の渇きを潤していた。
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聞き耳を立てて彼らの様子を探っていると、急に遠い昔の淡い記憶が脳裏に浮かんできた。
・・・あれはまだ闇の一党に、五つの教義が機能していた頃。
・・・――――――――――――――――――――――――――――・・・
私がシェイディンハルの聖域に到着したのは、まだ寒い冬真っ只中の星霜の月だった。
聞こえし者の存在は闇の一党にスカウトされる以前から知ってはいたが、私が顔を合わせたことは一度も無い。
ラシャや他の者達によれば、聞こえし者のアリサンヌ・ドゥプレは女性らしい。
聞こえし者と私が初めて対面したのは、私がシェイディンハル聖域に住みはじめてから数日後のことだった。
彼女がここに訪れたのは、他の聖域の破壊が海賊によって急速に進んでいること・・・今後のことを
伝えし者のラシャと話し合うためだ。
・・・ところが彼女は、聖域に到着して間もなく私の前に姿を現した。
彼女はブルーマ聖域で起こった悲劇や最愛の兄弟や姉妹との別れ・・・そして私がただ一人の
生還者ということを耳にしたらしく、憐憫な眼差しを私に注いだのだった。
そんな彼女の部下に対する情熱は、これまで失われた私の心を取り戻してくれた気がする。
・・・――――それから4ヶ月が経ち、聖域にすっかり馴染んだ私は今日も真面目に任務をこなしていた。
帝都にある闘技場のスターに憧れる熱狂的なファンになりすまし、すぐにグランドチャンピオンに気に入られた。
噂通りの男好きな彼を真夜中の森へと誘い込むのは容易かった。
そんな愚鈍な彼が横たわったその隙を狙い、隠し持っていたナイフを彼の急所目掛けて切り裂いたが
私の研ぎ澄ましたナイフですら、彼の鍛え抜かれた筋肉や骨を完全に切断するには時間が掛かりすぎた。
当然野放しにするであろうこの死体を私は無駄にしない。
今回は動物のためにバラバラに切り刻み、食べやすいように一手間加えた。こうすることで、熊以外の
小動物も喜んでくれるだろう。
―――――――――――――――――――――・・・
聞こえし者のアリサンヌは、ブラヴィルの私邸から離れて再びシェイディンハルに訪れた。
私が聖域に戻ると、アリサンヌとラシャがシャドウスケールの訓練施設の再開について何時間も話し合っていた。
時折笑い声も聞こえる。
『親しげに喋っているところを見ると・・・そうか、聞こえし者はあの猫がお気に入りだったのか』
ラシャの性格はとても厄介で、癖のある男だというのに、なぜ聞こえし者は笑顔を振りまけるのだろう?
あの猫だけには未だに毛嫌いされている。
私がシェイディンハルに住み始めてから、話しかけられることも滅多に近付こうともしてくれない。
仕事上の会話以外は一切しない、つまらない男だ。
2人があれだけ親しげにしているのを目の当たりにしてしまうと・・・焦りと苛立ちが込み上げてくる。
聞こえし者の目は節穴なのか?精一杯努力しているのは私だろう?
・・・ラシャではなく、この私に注目してはくれないだろうか?
暗殺者としての誇りを持ち、精一杯努力しているつもりだが・・・。
もしかすると彼女にとって私はまだ、存在感の薄いただの部下でしかないのかもしれない。
もっと聞こえし者のそばに近付きたい。彼女が滞在しているうちに、以前話した続きをもう一度したい・・・。
媚びるのはあまり好きではないが、ただの暗殺者で終わりたくないという卑しい気持ちが表面化しだすと
時々自分に腹が立つ。これもきっと親から受け継いだ遺伝子のせいなのだろうか?
ラシャとの話が終わり、聞こえし者が私の気配に気付くとジッと顔を見つめてきた。
その眼差しはまるで、いきいきとした野生の獣のようでもあり、幼い少女のような澄んだ瞳でもあった。
一瞬綺麗な瞳に吸い込まれそうになったが、急に胸を突き刺されるような感覚を覚える。
心を見透かされているような・・・そんな気分に陥り、怖くなった。
私がその場から離れようとしたとき、彼女が声を掛けてきた。
アリサンヌ:お疲れ様。またあなたとゆっくり話がしたいわ。・・・また後でね。
そして彼女はニッコリ微笑んだ。
―――――――――――――――――――――・・・
食事の後自室に戻り、棚に陳列してあるスクゥーマが入った小ビンを取り出して、椅子に腰を下ろした。
夕食後の一服はスクゥーマで割ったワインを飲んだり、原料であるムーンシュガーをパイプに詰めて
燻って吸うのが、もう一つの楽しみとなっていた。
スクゥーマは一種の麻薬みたいなものだ。中毒になれば大抵の人間は頭がイカれるが、私の場合
何度試しても興奮しない特殊な体質だった。
テーブルに肘をついてアリサンヌと会話した時のことを思い浸っていた。しばらくしてドアの外から
「おまたせ!」と聞こえし者の声がした。
心の準備間もなく、彼女は強引にドアを無理矢理開けて部屋に入ってきた。
もっとも私が驚いたのは、強靭で男勝りな背格好を想像していたが、彼女の体は意外と華奢で
端麗な顔立ちだった。
少し緊張しつつも、中央のテーブル席へと彼女を案内して椅子に座るよう勧めたが、結局彼女は
テーブルに寄りかかった体勢で上から私を見下ろす形になった。
アリサンヌ:あなたをここに迎え入れてから、まだ日が浅いわ。聞こえし者として、もっとあなたのことを
知っておくべきだと思って。
・・・はい、まずは私からね!小さい頃に体験した話をするわ。
シセロ:えッ・・・?
シセロは圧倒的な態度のアリサンヌに押されてしまい、強制的に話が進められた。
通っていた学校生活の出来事、兄弟の事、旅行の事・・・開始してから早くも30分が経ち、気が付けば
明るい話がいつの間にか暗く重苦しい内容に移り変わっていた。
アリサンヌ:すでに知っていると思うけど、ここにいる皆が幼くして辛い経験をした人達ばかりよ。
・・・つまり、私もなの。親から毎日虐待を受けていた。
気が付けば私は誰かを傷付けたり傷付けられることを自らの快感として得ていったわ・・・。
そして頭のおかしな人間だと世間から罵られたり恐れられたりしたの。
私と同じように、あなたも悲しい子供時代を経験してるんじゃないかしら・・・?
シセロ:・・・誰にも知られたくないような恥ずかしい内容を、なぜ平気で曝け出せるのだ?
アリサンヌ:あったの?それともなかったの!?
シセロ:・・・・・・。・・・そうだね・・・否定は・・・しないよ。
アリサンヌはシセロの質問を退けて淡々と話し続けた。
アリサンヌ:闇の一党に入ってから、自分だけの自由を手に入れることができたのよ。
任務さえ結果的にうまくこなせば、殺害する獲物は全て玩具のように自分の思うまま
好きなようにして遊んでいたわ・・・。
シセロ:・・・。
アリサンヌ:その頃の私はもちろん、人と接触するのが苦手だったけれど・・・聞こえし者に選ばれてから
責任感が一層強くなった。人のためによく考えるようになっていったの。
殻に閉じ篭るのはやめて、仲間との距離を縮める努力をした結果今の私があるってわけ。
辛い記憶を封じても、その時受けた深い傷は必ず体が覚えているから、思いがけない時に
フラッシュバックするものよ。
現実は残酷だから・・・常に恐怖が纏わりつく。薬に溺れたり誰かを傷付けたり、妄想に耽たり・・・
色々やったわ。・・・最終的に死ぬことも考えていたけれど・・・私は駄目だった。
アリサンヌは腰にある鞘から黒檀のダガーを抜いてダンッ!・・・とテーブルの上に突き差した。
アリサンヌ:憎しみや悲しみ・・・身内も誰も助けてくれない状況の中、私は傷ついた心を埋めるために
やがて罪のない人の命を奪う自分勝手な殺人者に変わってしまった。
・・・こんな状態から救ってくれたのが闇の一党だった。
黒き聖餐を行う者の願いを夜母が受け止め、聞こえし者に囁き、私達が任務をこなしていく・・・
なぜかそんな仕事に誇りを持って生きてきた。今までの中身のない殺人が意味のあるものに変わり
私の生き甲斐を見出すことができたの。
シセロ:背徳的でどちらも人を殺めることには変わりない。矛盾してはいるが・・・状況によっては
救われる命もまた然りだ。・・・おかしな話だね。
アリサンヌ:・・・誰でも最初から人を殺したいなんて思っていないはず。
人は何かをきっかけとして最悪、殺人者へと変貌してしまう。それは自分自身の問題なのか
周囲の環境なのか、生まれた時代のせいであるのかわからないけれど・・・殺害する動機や目的は
誰にでもあるわ。理由のない殺人があるわけないのよ。
アリサンヌは左手で頬にある傷をさすり、顔を歪ませた。
アリサンヌ:こんな私が今でも任務を遂行する一方で、裏では何を行っているのかあなたは知ってる?
捕らえた獲物を殺す前に色々と試すの。少しずつ切りつけたり、逆にわざと傷付けられたり・・・。
首を絞められて危うく命を奪われてしまいそうな時もあったけれど・・・とても刺激的で最高の快感を得られたわ。
・・・ねえ・・・あなたはどうなの?どんな場面で興奮するの?・・・とても気になるわ。
シセロ:・・・・・・。過去を掘り起こされるのはあまり好きじゃないが、聞こえし者の命令に背けば
夜母に無礼をはたらいたことと同然だ。・・・だから・・・・・・あなたが望むなら私は従うよ。
シセロはそっぽを向いたように黙ってしまった。
しばらくしてアリサンヌは、寄りかかっていたテーブルから離れてシセロの目の前に立つと
フッと軽く笑みをこぼし問い詰めた。
アリサンヌ:・・・・・・風の噂かしら?おそらく・・・あなたのことでしょうね。時々耳にするのよ。
死体に見られる痕跡が"ある特定の部位にだけ目立って損壊が激しい"のだと。
・・・これには墓守が毎回頭を抱えてしまっているらしいわよ。
一瞬ドキリとした。この時ばかりは冷静さを保てず、額から汗がじんわりと滲み出てくる。
理性が失われてしまう前に、聞こえし者をこの部屋から出て行くよう促さないとだめだ。
そうしないと私は・・・私でいられなくなってしまうかもしれない・・・・・・。
アリサンヌ:・・・あなたは貪欲だから、任務を遂行した後でも満足できないのよ。
・・・私が言いたいのはわかるでしょ?飽き足らないというのなら・・・たまには"生身の体"を試してみない?
少しは温かな肌に触れておいたほうがいいわよ。 "これ以上あなたの頭がおかしくならないように"ね・・・。
彼女がファスナーに手をかけてゆっくり下ろすと、艶美な膨らみが顔を覗かせた。
シセロ:私は闇の一党で最も格下のただの暗殺者にすぎない。あなたに従う立場であっても
敬うべき聞こえし者の体に触れることが、はたして許されるものなのか?
アリサンヌ:闇の一党の中でも一際、強い忠誠心と信仰深いあなたと、これからより深い仲になれるのであれば
戒律に基本的には触れないわ。寧ろ夜母やシシスは御喜びになる・・・いえ、それ以上に・・・
・・・サングインが黙ってないわね。
あなたは余計な心配はいらないし、罪悪感も持たなくていい。私の前では何も隠さなくていいのよ。
何に怯えているのか私はあなたの心を読み取る能力はないけれど、私とあなたはどこか似てるわ。
・・・・・・・・・同じ穴の狢だと思うの。
『"同じ穴の狢"か・・・そうかもしれない』
アリサンヌ:あなたも愛を知らずに育ったのなら、私の精神を理解してくれるはず。
だから私を受け入れて・・・そして信じてほしいの。
逸らしていた目を再びアリサンヌの方へ向けると、彼女も真剣な眼差しで見つめ返した。
・・・彼女は本気か?こんな私を受け入れてくれるのか?
シセロは彼女の頬や首元にそっと手をあてて確かめた。
熱いものが奥のほうから手の平に伝わり、血がドクドクと早く流れて脈が波打っている。
ほどよく弾力があり、柔らかで強い生気を感じる。
『こんな温かな肌に触れたのは生まれて初めてかもしれない。・・・親の温もりなど記憶にない。
見れば全く曇りのない真っ直ぐな目・・・これなら私を裏切る心配もなさそうだ。本当に・・・信じてもいいんだね?
彼女が真面目に私を受け入れてくれるというのなら、ずっと悩んでいた呪縛から解き放たれるかもしれない・・・』
聞こえし者に対する疑心と恐怖は、シセロの頭からいつの間にか消えていた。
彼女の愛はいったいどんな形なのだろう・・・?
温かいだろうか?冷たいだろうか?痛いだろうか?苦しいだろうか?気持ちがいいだろうか?
・・・やがて身にまとっていた衣服を全て脱ぎ捨てた、彼女の悩ましげな体がシセロの目に飛び込んできた。
アリサンヌは露になった乳房をピタリとシセロの厚い胸に撫でるように押し付けて、欲心を誘った。
『なんて暖かいんだろう?・・・こういうのも悪くはないな・・・・・・もっと聞こえし者のことが知りたい』
シセロは彼女の小さな肩をギュッと強く抱き寄せて、そのままゆっくりと共に沈んでいった――――――。
・・・―――――――時間が経つにつれて、彼女の体は痙攣したように敏感になっていく。
唇を重ねたり、胸先を吸い上げたり、愛撫したり・・・全身がビクビクと魚のように反応し、その度に
淫らに声をもらす彼女の姿にシセロの好奇心を掻き立てた。
アリサンヌ:・・・・・・ッ・・・・・・んん・・・あぁ・・・ッ!
さらに彼女の最も敏感な場所を指先で優しく撫でるように掻き回すと、透き通った蜜がトロリと流れ出した。
まるで小鹿のように全身を震わせながら身悶えし、たまらず喜悦の声を発した。
アリサンヌ: はあぅんッ!ああ・・・いい・・・・・・もっと・・・して・・・!
これまで味わったことのない生きた体に、シセロは獣のように貪った。
『死体はひんやりして気持ちいいが、聞こえし者の体はそれとはまるで違う・・・例えて言うなら
甘美な果実を味わっているようだ』
快楽に浸っていると、体中の悪いものが全て洗い流されるように清々しい気分になる。それは私の心が
彼女の愛で満たされた証拠なのだろう。
・・・愛撫するだけでは足りない。締め付ける何か・・・もっと私には刺激が欲しい。
事が終われば聞こえし者は私からまた離れて居なくなってしまい、再び孤独に襲われてしまう。
もし孤独に耐えられなければ理性を失い、私の心がこの先どう変貌してしまうのか・・・
恐ろしくて考えたくもない。・・・今はただ、彼女の体をこうして抱くことだけしかできない。
では・・・どうすればいいんだ?
ああ・・・!このもどかしい気持ちをどうやっても抑えられない・・・!
もっと愛したい・・・離したくない!
シセロは歯をむき出してアリサンヌの皮膚に噛み付いた。カリッと鈍い音とともに、ジワリと赤い液体が
沸々と湧き出る汗と混ざって流れ出た。
アリサンヌ:・・・・・・ッ・・・あうッ!!・・・痛い!
ああぁ・・・でも気持ちいいわ。ふふッ・・・私の全てが欲しくなったの?
いいわよ・・・あなたがどんなことをしても、全て受け止めて耐えきれる自信が今の私にはあるもの。
シセロ:・・・・・・・・・。
この瞬間、彼女が私の全てを受け入れてくれたのだと確信した。
幼い頃に見つけたものは本物の愛ではなかったのか?これまでの私の行いは間違っていた・・・?
聞こえし者は言った。
母親の愛、友情の愛、恋人の愛・・・それぞれ形は異なるけれど、あなたが今まで得た愛は偽りだ・・・と。
・・・―――――そうかもしれない、そうです。貴女の言う通りです・・・。
『この時間は私のものだ。この肉体も。この匂いも。聞こえし者は私の全てだ・・・』
傷の舐め合いで互いの心を癒し合う。
これを哀れと同情する者が、この世に何人くらい存在する・・・?
――――――――――――――――・・・
部屋から出て行く前に、なぜか彼女は私に向かい深々と一礼をして、黒檀のダガーを置いていった。
このダガーが私の一番の忘れ形見になろうとは、この時は全く知る由もなかった。
・・・――――――アリサンヌ・ドゥプレとの出会いが、私にとって希望の光を与えてくれたが、それもつかの間。
運命の歯車は急に狂いだし、幸せな2人に陰りをみせた。
ガルナグ:はぁはぁ・・・・・・はぁはぁ・・・・・・うぐッ・・・はぁはぁ・・・。
シセロ:大丈夫か?ガルガグ!
ガルナグ:命からがら・・・逃げてきたよ。幸運の女神の像は破壊された。
・・・俺は夜母の遺体が入ってる、この石棺を運び出すことで精一杯だった・・・・・・すまない・・・・・・。
シセロ:なぜ謝る?・・・お前は私より勇敢じゃないか。私はここに留まり、聖域内の見張りだけが
仕事だったというのに・・・。・・・・・・ところで、皆は無事か?
ガルナグ:・・・・・・俺と同行したアンドロニカは・・・殺られたよ・・・。
ああ・・・シセロ・・・すまない!・・・俺は命を投げ打ってでも戦うべきだったが、夜母を守ることで
頭が一杯だったんだ!・・・畜生!!
シセロ:・・・・・・。まさかとは思うが・・・・・・ガルナグ?聞こえし者は・・・どうした?
ガルナグ:・・・聞こえし者は・・・ア・・・アリサンヌ・ドゥプレは・・・・・・魔術師の炎に焼かれて・・・・・・死んだ。
アリサンヌが死んだ・・・死んだ・・・・・・聞こえし者が・・・
私の中の愛する者が・・・死んだ!
これからどうしたらいい・・・・・・?
誰が闇の一党を束ねて指示をする?
夜母の声を聞き届ける者がいなくなれば、これから先の闇の一党はますます衰退していくのでは?
ああ・・・アリサンヌ・・・・・・君がいなくなってしまったら、いったい私は誰に縋って生きていかねばならない?
誰を信用したらいいのだ?・・・わからない。・・・もう、何もかもなくなってしまった。
私が殺したも同然なんだ・・・!
あのときブラヴィルに同行するのをラシャが止めてくれなかったら・・・私も一緒に逝けたのに・・・
死ぬつもりで聞こえし者を護りたかった・・・。
・・・アリサンヌ・・・愛とはこういうものなんだろう?・・・ね?
心にポッカリと穴が開いてしまったようだ。これからどう、生きていけばいい・・・?
・・・―――――――――――――――――・・・
今の私の心奥には彼女の残してくれた愛の欠片が確かに残っている。
私が望んでいたものは愛・・・私の知りえない領域・・・・・・それを彼女は正しく教えてくれた。
・・・・・・私にとっての女神はアリサンヌ、ただ一人だけ・・・。
...続きをたたむ ≪≪
- 2015-01-18 :
- Sumomoの物語
【第29話】黒いドレスのシンデレラ
・・・―――――――――――――――・・・
一度破壊してしまった物を修復するには時間が掛かるが、元に戻すことはできる。
しかし、人間関係の縺れを治すのは容易いことではない・・・。
・・・―――――――――――――――――・・・
一度破壊してしまった物を修復するには時間が掛かるが、元に戻すことはできる。
しかし、人間関係の縺れを治すのは容易いことではない・・・。
・・・―――――――――――――――――・・・
Sumomoが聖域に戻ってから、どこを探してもアストリッドは見つからなかった。
それにソリチュードで出会って以来、ヴィーザラの姿も見かけていない。
・・・結局アストリッドと再開できたのは、4日目の昼だった。
以前と比べると、落ち込んだ様子は見られず、逆に意気揚々とする姿にSumomoは驚いた。
アストリッド:ハッハッハッハッハッハ・・・!!
どこもこの話題で持ちきりよ!皇帝の従姉妹、ヴィットリア・ヴィキが結婚式で殺されたってね!
Sumomo、よくやったわ!
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Sumomo:・・・!
アストリッド:報酬はお金とそれから・・・闇の一党の伝説的人物を召喚する特別な呪文よ。
これはとある闇の錬金術師が、特別な方法を用いたところ偶然発見したらしいの。
私は魔法のことは分からないし必要ないから・・・あなたが持っていてちょうだい。
闇の一党に関わりのある伝説的人物とは誰のことなのか?
Sumomoにとって、とても興味深いものだったが、この巻物をいつ使えばいいのか悩むところだ。
手渡された魔法の巻物をドレスのポケットにそっとしまいこみ、顔を上げた瞬間
アストリッドからの鋭い視線がSumomoとぶつかり合った。
アストリッド:あなたのそのドレス・・・とても素敵じゃないの。
生地や刺繍糸が高級なものばかりなようだけど、いつの間にそんな上質な物を手に入れたの?
今まで着ていたローブは擦り切れて汚れが目立っていた。新しく新調したものが
この高級感漂うドレスということから、アストリッドから見ればとても違和感を感じているようだった。
Sumomo:あ・・・あの、これは・・・
アストリッド:ふふ・・・言い辛いでしょうね。・・・送り主はだいたい察しがつくもの。
スカイリムでそのような珍しく古いドレスを扱うお店はソリチュードのレディアント装具店しかないはずよ。
それにあの街は帝国との貿易が盛んで・・・インペリアルが多いでしょう?
人差し指を頬に当ててニヤケながら、さらに言った。
アストリッド:いずれにしても、あのボロボロのローブよりはこっちの方がしっくりくるかもしれない・・・
まるで灰かぶりの娘が魔法にかけられて綺麗なドレスに身を包んだかのような。
・・・どこかのおとぎ話みたいでとてもロマンチック。
Sumomo:・・・・。
アストリッド:でもね・・・一言私に言ってほしかった。あなたにもっと似合う服を用意してあげられたのに。
・・・なぜなの?どうしてここの長である私に相談してくれなかったのよ!?
肘掛けを軽くドン!と叩くアストリッドの姿を見て、Sumomoは思わず身を縮めた。
一呼吸置き、乱した心を落ち着かせたアストリッドはまたSumomoの顔を鋭い目つきで見上げた。
アストリッド:・・・わかっていたわ。
・・・よりによって・・・シセロとはね・・・?ふ・・・ふふッ。その目は・・・・・・やはり図星のようね。
あなた達のこと、前から怪しいと思ってたのよ。
Sumomo:シセロのこととなると、血相を変えるあなたはまだ、敵視しているんですね。
・・・どうして意地悪なことばかり言うんですか?
Sumomoは今まで我慢してきた分を一気に吐き出すかのように、初めてアストリッドに反抗した。
ガラリと態度が変わったSumomoの姿を見て、アストリッドは驚きの様子を全く見せなかった。
『あなたは可愛い家族の一員だからよ。そう・・・可愛い妹みたいなあなたをアイツに奪われたくないもの。
・・・全てはこの闇の一党を脅かすシセロから遠ざけるため。そうすれば自然と古い習わしも
忘れてくれるはずよ・・・』
アストリッド:・・・くどいようだけど、私の言うことをよく聞きなさい。
今のうちにシセロから手を引いたほうが身のためよ。
Sumomo:私は・・・私はそうするつもりは・・・・・・今のところありません・・・!
アストリッド:そう、そこまでシセロを庇いたいの?・・・その様子だと
・・・まだ魔法が解けていないようね。現実の世界に引き戻しましょうか?・・・灰かぶりのシンデレラ。
Sumomo:・・・・。・・・そう言うあなたこそ・・・・・・・ヴィーザラと裏でコソコソ何をやっているんですかッ?
アストリッド:・・・・・・!
――――――――――――――――――・・・
そう・・・あれは・・・・・
私がアストリッドとヴィーザラの間に何かがあると確信したのは
2日前のこの出来事がきっかけだったの。
・・・―――――――――――――――――――――――・・・
私が聖域に戻ったときは、アストリッドとヴィーザラの姿がなかったし、どうしてこの2人がいないのかを
聖域の仲間から聞きだそうとしても答えは出てこなかった。
・・・――――――――――――――ある人物を除いては・・・。
Sumomo:ふぅ・・・。どこを探してもいないんだけど・・・ねえ、四六時中聖域内にいる
あなたなら知ってるでしょう?
シセロ:四六時中ねぇ・・・。当たっているといえば当たっている。
する事といえば、夜母の世話くらいだろうけど・・・たまにお散歩・・・たまに夜の徘徊。
黙っていればそのうち戻ってくるんじゃないか~?・・・2人揃ってねぇ・・・ヒャヒャヒャ。
意味深な発言にSumomoはドキリとした。
シセロ:私が怪しいと思った場所まで案内するよ。
たぶん・・・いや、確実にあの箇所に仕掛けがあるに違いない。きっとそこには・・・
―――――――――――――――・・・
シセロが案内してくれたのは、アストリッドとアーンビョルンの寝室だった。
そして、シセロは入って右手にある大きなタンスを指さした。
シセロ:ほらあそこ・・・よく調べるのだ。
タンスが浮いてるのがわかるだろう?ね・・・?きっとあそこの後ろが隠し扉になっているんだ!
恐る恐る近付いてタンスを調べると、シセロの言った通り隠し扉が隠れているみたいだ。
タンスにはわずかに隙間があり、この隙間の向こうの広い空間までは薄暗く少し湿気高かった。
そして空気の流れは、淀みなく波打つように穏やかではないことが感じとれる。
・・・きっと誰かがこの向こうにいるに違いない。・・・なんか嫌な予感がしてきた。これ以上深入りはしたくない・・・。
シセロ:・・・怖じ気付いたのかい?こうしてよく耳を澄ましてごらんよ。
この冷たくシットリとした木を伝って聞こえてくるだろう・・・?
・・・耳元に囁く優しい響きや、激しく感情を振り撒いたうねり声ッ!
そして・・・熱い息遣いッッ!!!・・・ほら、これは間違いなくッ・・・・・・!
耳をピッタリとくっつけて、シセロと同じ体制になった。
僅かな隙間からヒューンと風が吹いて、Sumomoの耳を優しく撫でる。
風と混ざり、微かに聞こえてくるのは聞き覚えのあるあの人の・・・・・・。
シセロ:この向こうに居るのは・・・・もしかするとひょっとして・・・・・・・アストリッドとヴィーザラなのか・・・?
アヒャヒャヒャ・・・!だとしたらぁ・・・・
まさに狂恋ッ・・・・・・姦通だぁぁ~ッッ!!あああああ!!激しすぎるよぉぉ~!
Sumomo:まさか!あ、ありえな・・・・・・嘘でしょう!?・・・シセロく~ん・・・
・・・・・・うそ・・・・・・だよね・・・?
叫びたい声をなんとか抑えて、Sumomoはシセロに問いかけた。
シセロ:聞こえし者はシセロを疑うのかぃ?・・・酷い!!シセロは生まれてから一度も嘘を吐いたことはない。
夜母とシシスに誓って・・・断言できる!ほら、集中してよく聞いてごらんよォ!
・・・―――――――――――――――――――――・・・
この向こうには秘密の隠し扉があって・・・
この向こうには秘密の隠し扉があって・・・
その扉を開くとその奥で・・・・
体を寄せ合い手足を絡ませて、互いに見つめ合う2人がいる・・・?
体を寄せ合い手足を絡ませて、互いに見つめ合う2人がいる・・・?
あの勇ましい姿で真面目な闇の一党のリーダーが・・・
快楽に顔を歪ませ・・・・・・
悦びに震えた声を叫ぶ
まさか・・・まさか・・・・・・・
・・・まさか・・・・・・・!
・・・・・・
アーンビョルンは?
どうするつもりなの・・・?
・・・――――――――――――――――――――・・・
Sumomo:・・・・・・。
シセロ:・・・・・・つまらない。なぜならシセロは、2人の関係に全く関心がないからね。
聞こえし者の考えてることが、さっぱりわからないよ。どうしてそこまで真剣になれるのだ?
・・・関われば面倒なことになりかねないのにねぇ?ん?・・・まさか・・・もしや・・・・・・!
ハッとした顔をしたシセロは、何かを思いついたようにして、再びタンスに耳をつけて
隠し扉の向こうの様子を探った。
シセロ:クク・・・興味がそそられたものとは、きっと・・・アレかな?
・・・久しぶりすぎて気付くのに時間が掛かりすぎてしまった・・・。
Sumomo:・・・なッ・・・何を言いたいの・・・・・・?
シセロ:ククク・・・聞こえし者はとぼけるのが下手だね。・・・耳と鼻が真っ赤だよ。
興味があるのはあの2人の関係じゃなく、SEXのことだろう?
Sumomo:・・・・・・・!!
素早く耳を両手で覆い隠したけれど、なぜか変な汗をかいてしまう。
シセロに悟られることの恥ずかしさが、余計にSumomoの顔を熱くさせた。
シセロ:・・・・・・・・・シセロはすっかりご無沙汰だ。
チラリ。
Sumomo:やらしい目でこっちを見るんじゃないのッ!!
シセロ:シーーーーーーッ!!・・・私に負けないくらい声が大きいねぇ。おや?
・・・まさか・・・興奮してるの?今の言葉で感じちゃったのかぃ??
Sumomo:な、何ぶつぶつ卑猥な言葉を連発してるの!?・・・気持ちわるぅ~・・・!
シセロ:・・・・・・。
・・・――――――――――――――・・・
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アストリッド:・・・・あ、あなた・・・今・・・私に向かって何を言ったのよ!?
私が愛しているのは・・・アーンビョルンだけ!変なことを言わないでちょうだい!
ヴィーザラは私の大切な家族の一員なの!ただそれだけよ。やましいことは何もないわ。
・・・・・・・・・気分が悪いわ。さっさとここから出て行ってッ!!
『・・・・・・・・・・・・・・・』
どうして意地の悪いことを、ぶつけてしまうのかしら?・・・・嫌いになりたくないのに。
・・・あなたが・・・・・・・あなたが悪いのよ。
いえ・・・根本的にこの闇の一党をかき回して、混乱に導いたのは・・・
・・・・シセロよ・・・!
ああ、なんて憎らしいの・・・・・・?
・・・ああ・・・ああぁ・・・・・・
いえ・・・根本的にこの闇の一党をかき回して、混乱に導いたのは・・・
・・・・シセロよ・・・!
ああ、なんて憎らしいの・・・・・・?
・・・ああ・・・ああぁ・・・・・・
ガクンッ。
だんだん私が、嫌な女になっていく・・・・・
―――――――――――――――――――――――・・・
「純然たる無垢な心をもった人間はこの世にはいない。皆、不完全につくられているものだよ。
ありのままの考えを曝け出す者。世間から善人と見られたいが為に、自分の失点を包み隠しながら
生きる者・・・。振る舞いは人それぞれだけれど・・・私が思うに、後者が一番この世で
多いんじゃないかとおもう。細く長く人生を生き抜こうという知恵を、生まれたその瞬間から
与えられた人間の元々持つ性質なのだ。
・・・私?聞くまでもないじゃないか。・・・私は間違いなく前者のほうだろう?」
あるときシセロに言われた言葉。私は後者のほうだね・・・きっと。
だからってわけじゃないけれど、このままずるずるとどっち付かずな行動を取ってる時間はあまりないと思う。
アストリッド側なのかシセロ側なのか・・・それとも・・・・・・。
Sumomoは精神的にも肉体的にも、疲労が限界に達するのは時間の問題だった。
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- 2014-11-04 :
- Sumomoの物語