・・・――――――――――――――――――――――――――・・・
「・・・・・・・・・愛しているよ、アリサンヌ」
「ああ・・・また心が蝕まれそうだ。孤独に耐えられそうにない。
今は亡き聞こえし者・・・この先の闇の一党はどうなるんだ?私はこれからどうしたらいい?」
「・・・・・・ククク・・・夜母よ。私が相応しくないというのなら、いったい誰だというのだ・・・?」
「・・・アリサンヌの魂が常闇の父の元へ旅立ってから、もう12年4ヶ月と10日が経ってしまった・・・。
母の願いを叶えることを優先させ、私達の新たなる聞こえし者を見つけなければ・・・・・・」
――――――――――――――――――――・・・
Sumomo:・・・ッ・・・うぅ・・・・・・。
シセロの強い感情と共に過去の情景が夢の中に現れ、一気に悲しみに襲われたが、同時に腹立たしさも
生まれていた。
私は・・・嫉妬している。なぜ嫉妬しているのか、もう自分ではわかっていた。
人を笑わせてくれるところ、本当は従順で優しく思いやりがあるところ・・・どうしても嫌いになんてなれなかった。
それどころか、シセロに対して有らぬ感情を抱いてしまっている・・・。
・・・でも、夢で見たアリサンヌという女性の話した内容が事実だとしたら・・・?
この夢はもう何十年も前のことなのに・・・なぜか昨日のことのようで・・・・・・手が震えてしまう。
辛いだけなのに、なぜかあの先を見てみたいと強く願ってしまうほど、シセロのことが気になっている・・・。
ただジッとしていても、私が眠りにつけば何かしら夢の中の話は確実に進行していく。
・・・怖くてたまらないけれど・・・
知りたい・・・!聞こえし者としての威厳を大事にするとか全然そんなんじゃなくて、これは私個人の問題だから。
現在だけじゃなく、未来のことも踏まえてシセロのことをもっと知っておくべきだと思うの。
・・・それがたとえ目を背けたくなるような光景だったとしても―――――――――・・・。
・・・――――――――――――――――――――――――――・・・
バベット:あら?その目は・・・いったいどうしたの?泣き腫らしましたって感じね。
いつものことだけど・・・。 そんな様子じゃ、この前約束した土産話も聞けそうにないわね。
Sumomo:・・・ごめんね。
バベット:アストリッドと何か揉め事したんでしょう?早めに修復しないと後々大変なことに繋がるわよ。
ああ見えて結構、気難しい性格だから。
・・・ところで、ガブリエラがあなたに話があるみたいよ?なんでも次の依頼とか。
気持ちが落ち着いたら行くといいわ。
Sumomo:・・・・・・・・・。
もちろんアストリッドにきついことを言ってしまったのは反省している・・・。
でもシセロのことを頭ごなしに毛嫌いした態度をとるところが、唯一あの人を尊敬できない部分でもあるの。
シセロは何も悪いことはしてないと思うし・・・寧ろ闇の一党の伝統を守り、古い仕来りを皆に伝えようと
頑張っている・・・。
けれど・・・・・・聖域の今の状況を考えると、シセロの努力も最初から無駄だと私にも見てとれるし・・・
アストリッドの心を動かすことは、ほぼ不可能に近いもの・・・。そして、彼女の周りにいる人達の絆も強い。
シセロとアストリッドの仲を良い方向にもっていくことは、未来永劫無いかもしれない。
互いにプライドも高いし、一度決めたら考えを曲げない。まるで水と油のような交わらない性質を持っているのよ。
『ああ・・・・・・もう・・・・・・駄目だよ・・・・・・。考えすぎて頭がパンクしそう。息が詰まりそう・・・・・・。
しばらくここから身を引いたほうが、楽になれるかも・・・・・逃げてると思われてもしょうがないよね?
・・・・・・もう疲れちゃった・・・・・・』
実際に私がしばらくここを離れて魔法大学へ入学することが決まったら、シセロは止めてくれるかな・・・・・・?
『・・・・・・・・・うゎ!』
・・・少し期待してしまった自分が・・・とても恥ずかしい・・・・・・。
―――――――――――――――――――――――・・・・・・
バベットと別れてしばらく経った後、ガブリエラの元へ向かったが、Sumomoの足取りはとても重かった。
それに、いつもより寒気がして体全体が宙に浮いたような感覚だった。
ガブリエラ:親愛なる姉妹よ。待っていたわ。
あら・・・なぜ浮かない顔をしているの?それに・・・精神の乱れを感じる。・・・とは言え、なるべくなら直ぐに
次の任務をこなさなければならないわ。一回しか説明しないから、私の話をしっかり聞いてちょうだい。
Sumomoは意識が不安定な中、これだけは思った。・・・この口調はまるでアストリッドにソックリだと。
ガブリエラ:皇帝がスカイリムへ来るのが確実なら、保安機関であるペニトゥス・オクラトゥスは
すぐに準備を始めなければいけないでしょうね。警備はマロ指揮官が担当しているわ。
・・・昨夜、アストリッドと私は話し合って、指揮官をつぶす計画を立てたの。
あなたは指揮官の息子、ガイアス・マロを倒してきて。
彼が死んだら、死体に皇帝の暗殺計画に関わったという偽の証拠を握らせるのよ。
ガブリエラは、アストリッドが作った偽の手紙をSumomoに差し出した。
Sumomo:これを死体に?うまくいくかな・・・?前回はヴィーザラが助けてくれたおかげで
成功したようなものなのに・・・。
ガブリエラ:今までの自分がやってきた行動を振り返ってみれば、今回の任務は楽勝と言えるわ。
指揮官は護衛も付けずに、たった一人でスカイリムの街を一つずつ巡回して、安全性を確かめることに
なっているのだから。・・・だからあなたは、心置きなくマロを簡単に殺せるんじゃないかしら?
『誰にも見つからないような場所を事前に決めておかないと。
皇帝に近い人物だと思うと、急に怖気付いちゃったけれど・・・ガブリエラの言う通り、なんとか
やれそうな気がする・・・』
Sumomo:・・・・・・うん。私・・・頑張ってみる。
ガブリエラ:あなたは・・・ヴィキ殺しの一件で、闇の一党がもう何世紀も体験したことのない冒険へと
私達を導いてくれたのよ。皇帝の暗殺という冒険へとね。今ではこの闇の一党に無くてはならない
存在の一人だと、少なくとも私は思っているの。
Sumomoは、ガブリエラの言葉を聞いて少し胸が痛んだ。
この任務を終わらせたら、聖域から離れてしばらく自分の希望してた魔法大学へ行くと、ついさっき
誓ったばかりなのに・・・。
ガブリエラ:実は今回の計画はほとんどアストリッドが立てたようなものなのよ。
私だけが思っていることかもしれないけれど、アストリッドは殺害計画を企てるのが天才だわ。そして
私達を正しい方向へと導いてくれてる。彼女には感謝しきれないくらいよ。
・・・さあ、出発の準備をして。彼の魂をシシスに捧げてきてちょうだい。健闘を祈っているわ。
アストリッドの周りの人達は皆、今も彼女を信頼し褒め称え、固い絆で強く結ばれている・・・。
それを壊してまで、古い仕来りを伝えないといけない?
シセロが正してるのは間違いではないけれど・・・でも、もう・・・・・・。
・・・――――――――部屋へ戻る途中、通路の奥から誰かがやってきた。
コツコツと音を立てながら姿を現したのは、紛れもなくあの人だった。Sumomoはピタリと足を止めると
少し震えた声で言った。
Sumomo:シ・・・セロ・・・・・・?
・・・今一番会いたいけれど、会いたくない人。その人が今、私の目の前にいる。
私がこんな複雑な気持ちになっているのは、やっぱりあの夢の影響なのかな・・・?
不意にシセロはSumomoの腕をそっと掴んだ。
シセロ:聞こえし者・・・?顔色が優れないね。それに・・・・・・体がとても冷えているよ。
彼に触れられると、反射的にビクッとしてしまう。苛立ちと恐怖にかられてしまう・・・。
無意識に自分の気持ちとは逆の行動をとってしまう体が・・・嫌になってくる。
Sumomo:ありがとう・・・心配してくれて・・・。
シセロ:勿論さ。"
私の聞こえし者"・・・だからねぇ。
彼の一言一言が、別な意味で奇妙に聞こえてしまう・・・。
あの夢のことで、私が
意識しすぎてるせいなんだろうな・・・・・・きっと・・・・・・。
私が人の心の中や過去を読み取り、夢に映す能力は確か、シセロは知らないんだっけ・・・。
この特殊な能力があるのをシセロが知ったら、本人はどういう反応をするんだろう?
Sumomoはシセロの目をジッと見た。
―――――――彼の目は正直に心の奥まで私に伝えてくれる。
優しさと、幼さと、孤独に満ちた、深くて暗い色をしている。
それよりもさらに深いところまで探っていくと、微かに"悲嘆的な感情"が見えてくる・・・それはもしかして・・・
あの人のことを未だに忘れられないの?以前の聞こえし者・・・・・・"アリサンヌ"という人のことが・・・。
シセロ:聞こえし者は、いつから私のことをそんな怯えた目で見るようになったのだ?
私が聞こえし者に、何か不都合なことをしたっていうのかい?・・・あるとすれば、それが何なのかを
詳しく教えてほしい。
掴まれた腕をそっと払い除け、Sumomoはシセロとの距離を広げた。
Sumomo:・・・最近のシセロ、なんか変・・・。恋人同士じゃないのに、至近距離まで顔を近付けたり・・・
手を握ったり・・・少なくとも私の中ではありえないことだよ。
シセロ:・・・悪気があってやったわけではないんだ。顔を近付けたのはちゃんと理由があってねぇ・・・。
これについては、また今度詳しく話をするよ。・・・とにかく、私とヴィーザラが顔を合わせた時のことを
思い出してみてほしい。
・・・――――――聖域の大広間で、私とヴィーザラは会話をいている真っ最中だった。
急にシセロが間に割って入ってきて、私の手を握り締めてきたときのこと・・・あの日のことはよく覚えている。
そしてあの時見せた、シセロの鋭い眼光はとても・・・恐ろしかった。
シセロ:私が無理矢理、聞こえし者の手を掴んで連れて行った理由はね・・・聞こえし者を
"護りたい"という気持ちが強まったからだ。
聞こえし者は"皆の聞こえし者"だが、この聖域はまだ整っていない。不完全だから・・・私は認めたくないんだよ。
私は素直に嬉しかった。でも少し引っ掛かりがある・・・。
Sumomo:・・・私のことを心配してくれるのは、とても嬉しいけれど・・・あなたの行動は少し
過剰すぎるんじゃない?
シセロ:・・・そうかもしれないね。私の元々ある支配欲が強いせいだろう。
・・・そして聞こえし者を護る気持ち以外に、
別な感情があったと思う。
Sumomoはドキドキしながらシセロに問いかけた。
Sumomo:別な感情・・・・・・って・・・?
シセロ:・・・あれはたぶん・・・・・・私の
嫉妬かもしれないね。
守りし者は夜母を守ることも仕事だが、聞こえし者を護るのも当然の行いなのだ。したがって聞こえし者が
古い仕来りを守ろうとしない連中と関わっているのを、簡単に見過ごすわけにはいかないんだよ。
口より先に体が動いてしまった私の悪い癖だね・・・。聞こえし者には私の"焦った姿は格好悪い"と
目に映ったかもしれない・・・。
Sumomo:・・・・・・・・・。
『私の思い違い?それとも上手くかわされてしまったのかな・・・?』
自分の思っていた答えと違っていたので、Sumomoは少し顔が熱くなった。
シセロ:・・・しかし、私の行動が過剰だなんてねぇ。聞こえし者が、そこまでハッキリ言うとは思わなかったよ。
少しグサリと胸に突き刺さったような感覚だ。フフフ・・・なるほど。
私の今までの行いは・・・聞こえし者にとって迷惑だった、ということか・・・・・・。
顰笑な表情を浮かべたっきり、シセロの口からそれ以上は出てこなかった。
ここはあえて言葉を選んで慎重に行動しなければ・・・と、軽率な内容をシセロに投げかけてしまったことに
Sumomoはとても悔やんだ。
すべてはあの後味の悪い夢のせいだと思ってしまう・・・。
その場の空気が重くのしかかると、もう一人の悪魔が私に『ここから逃げ出そう』と誘惑する。
『シセロをここに残して・・・・・・自分だけやりたいことをしに行くのは、私のワガママなのかな・・・?』
"さよなら"を言いかけたとき、シセロは何かを思い出したようにしてSumomoを引き止めた。
シセロ:・・・そうだ。ほんの数日前になるんだが、バベットが聞こえし者の体をとても心配していてね。
・・・なんでも、ファルクリースから徒歩で数分の場所に秘密の温泉があるらしい・・・。
本人は一緒に行きたがっていた様子だったよ。
聞こえし者の体も冷え切っていることだし、丁度いいんじゃないか~?できれば、私も護衛としてお供を・・・
と思っていたんだがねぇ・・・。
瞬き一つせずに、シセロはSumomoの反応を窺っていた。
そんなシセロの様子にSumomoは『これはシセロのいつもの軽い冗談だ』と思った。
Sumomo:わかった。教えてくれて・・・ありがとね。
それだけを言い残して、シセロの元から離れた。
"・・・・・・・・・私、しばらく聞こえし者をお休みしたいんです・・・"
これを一番最初に伝えるつもりだったのに、なぜか勇気が出なくて、怖くて・・・・・・ごめんなさい。
私は静かに、この聖域を去ることにしたの。
・・・この任務が終わったら・・・・・・・・・。
...続きをたたむ ≪≪