【第28話】射抜いたのは誰?
結婚式前夜 ―――――――――――――・・・
ヴィットリア・ヴィキ:ねえ母さん・・・いよいよ明日ね。
アレクシア・ヴィキ:・・・。
ヴィットリア・ヴィキ:そんな悲しい顔をしてはコウノトリが逃げてしまうわ。
親子の絆がそこで途切れるわけではないのよ?心配しないで。安心して観ていて、母さん。
・・・結婚式は絶対成功してみせるわ!
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アレクシア・ヴィキ:アスゲール・・・スノー・ショッド・・・
ヴィットリア・ヴィキ:ええ。私、これでよかったと思ってるわ。ちっとも後悔してないもの。
敵同士であっても私達の恋愛には全く関係ないとおもうし、それに・・・
少しでも帝国とストームクロークの平和に繋がるのなら、それは素晴らしいことよ。
アレクシア・ヴィキ:・・・そう簡単にうまくいくとは思えないね。私は認めない。
アスゲールとの結婚を諦めるなら今しかないんだよ?
ヴィットリア・ヴィキ:まだ言ってるの・・・!?・・・私達、愛し合ってるのよ。迷う理由はどこにもないわ。
アレクシア・ヴィキ:・・・・・・。
『母である私でさえ、ヴィットリアの結婚を止めることすら出来ないなんて・・・悔しい!
あの忌々しいストームクロークめ・・・私の可愛いヴィットリアと一夜を共に過ごしているなんて
想像しただけでも怒りで震えてしまうよ!』
――――――――――――――――――・・・
チチチ・・・
小鳥の騒がしい鳴き声で目覚めたSumomo。
まだ眠たい目を擦りながらゆっくりベッドから起き上がって窓に向かい、カーテンを勢いよく開けた。
澄んだ空気を吸いながら背筋をピーンと伸ばして体を軽く動かしたけれど、いまいち調子が出ず
重だるさが残っていた。それもそのはず、昨夜は遅くまで弓矢の練習に没頭していたからだ。
『見守っていてください神様。私に味方してくれる神様・・・』
Sumomoはチェックアウトを済ませるために階段を下りると、フロアから聞こえてくる
客同士の会話の内容に驚いた。
「いやー・・・まいったよ。式開始早々、新郎新婦の親族同士でちょっとした揉め事があってよぉ。
危なく中止になるところだったんだ。首長の説得で今はなんとか大人しくなったが・・・皆ぶつぶつ文句言いながら、式に
参加しているよ」
客の誰もが結婚式の話題で持ちきりの様子で、目がギラギラしていた。
『敵同士の結婚だもの・・・騒がないほうが逆におかしいよね』
チェックアウトを済ませた後、昨日と同じ道を歩いて会場へと足を運んだ。
Sumomoが聖堂前入り口の小さな門をくぐった時、特に衛兵に止められることは無かったので
妙な違和感を感じた。
『ヴィットリアを守るための兵士が何人か配備されていて、厳重な警備の中の式だとおもっていたのに・・・
どうして一人だけなんだろう?』
辺りを見渡すと、皇帝の警護にあたるペニトゥス・オクラトゥス使徒がいたので話を聞くことにした。
皇帝のいとこヴィットリアの寛大な配慮で、一般市民も国外の人も皆が楽しめるように
堅苦しい検問は一切しないで、出入り自由にしている・・・とのことだった。
こんなに自由があっていいものかと、逆に戸惑いながらも会場に入り、Sumomoはなるべく
一般人を装うため、ターゲットとなるヴィットリアに近付いて謁見をすることにした。
Sumomo:お初にお目にかかります。エルスウェアーから来ました。
この度はアスゲール様とヴィットリア様のご結婚を心からお祝い申し上げ・・・
アスゲール:おいおい・・・そんなにかしこまらなくてもいい。
ここは帝国とストームクロークが対等の立場で団結した場所だ。
身分など気にしないで、平和と幸せを一緒に分かち合おうではないか。他国でもだ。
お前が普段振舞っている自然な姿でいいんだぞ。
Sumomo:あ・・・・・・はあ・・・・。
ヴィットリア・ヴィキ:アスゲールの言う通りよ。スカイリムの問題は私にもあなたにも関係はないの。
そんなことは忘れて、今日は沢山食べて、飲んで、笑う日にしましょう。
どうぞ心おきなく楽しんでいってね。
こうして新郎新婦との言葉を交わした時間は長くなった。
話を交わしているうちに緊張が解れ、二人との距離も短くなった気がする。
そして、平和を誰よりも純粋な気持ちで切望するヴィットリアの姿にSumomoは心を打たれた。
アスゲール:最高な気分だよ。ヴィットリアは素晴らしい女性だ。
男なら誰もが羨ましく感じるだろう。自分がインペリアルと結婚したことに父が不満なのは知っているが
そんなのは問題じゃない。
ヴィットリア・ヴィキ:・・・これまで色々と揉め事はあったけれど、先ほど式が無事に済んだの。
・・・とても素晴らしかったわ。この記念すべき日を大切に深く胸に刻みたいの。
ああ・・・感動してまた・・・。今とても胸がいっぱい・・・みんなよくしてくれて・・・最高に幸せよ。
ヴィットリアの目から一筋の涙が零れた。
Sumomo:・・・・・。
私が思っていたよりも、遥かにヴィットリアは清らかな心の持ち主みたいね。
・・・皇帝のいとこというだけで、この人を殺さないといけないなんて・・・・。
もっと他にも皇帝を誘き出す手段はあったはず。
こんな笑顔を見せられたら、やる気が失せちゃうな・・・なんだか胸が痛い。
ためらう気持ちを抱きつつ、アストリッドの命令を絶対に実行させなければならなかった。
アストリッドが言っていたように、ヴィットリアの挨拶が始まれば、会場内の参加者の視線が
一気に集中することになる。その時が最大の狙い目なのだと・・・。
余計に誰が殺したのかこれでバレてしまう訳だが、この目立った行動をする理由には何か思惑があるらしい。
バルコニーに向けて矢を放てやすく、尚且つ招待客から死角になるようなベストな場所はあそこかもしれない・・・。
聖堂入り口付近の木の扉から中へ入って、狭い石の螺旋階段を上った先の眺めは
バルコニーまでの距離も丁度いい感じだ。
『ここなら上手くやれそう・・・』
Sumomoは静かに弓矢を手にとり、ヴィットリアがバルコニーに上がって挨拶するその瞬間まで
固唾を呑んで見守った。
バルコニーと睨めっこしてから早くも30分が経とうとしていた時、会場内に動きがあった。
ペニトゥス・オクラトゥス使徒に導かれて、アスゲールとヴィットリアの二人が向かった場所は、バルコニー。
そして挨拶の準備が着々と行われ、いよいよ本番のときがやってきた。一気に緊張感が高まる。
ヴィットリア・ヴィキ:こんにちは。善良なソリチュードの皆様。
すでにご存知の方もおられると思いますが、私は皇帝のいとこに当たるので夫より先に代表して
ご挨拶をいたします。どうかご理解の程宜しくお願いいたします。
『あれ?視点が揺らめいてる・・・これじゃあ失敗しちゃう!』
Sumomoはヴィットリア目掛けて放てるよう矢先に集中したが、何かが邪魔をして
矢を握った手が言うことを利かないでいた。
ヴィットリア・ヴィキ:最近は戦争とかドラゴンとか、至る所で恐ろしいことが起きているようですが
今日はどうか不安を忘れて楽しく過ごしてください。
私達夫婦にとってこの特別な日を一緒に分かち合ってくださり、とても感謝しています。
全ては皆さんのおかげです。夢が叶い本当に素晴らしい結婚式になりました。皆さんどうかお幸せに。
私達も幸せになります。何もかも本当にありがとう。
『どうして矢を持つ手を離せないでいるの?命中させればこの任務はすぐ完了するというのに。
でも怖い・・・怖くて、手が震えてる。私はいったい何に怯えてるんだろう?』
数十秒もの間、弓矢を構えてただその場を動けずにいたSumomoに、突然弓を持つ両手が
ほんわりと何かに包まれる温かさを感じた。
驚いてすかさず目を向けると、背後にはヴィーザラの姿があった。
!
Sumomo:は・・・離して!・・・ヴィー・・・
ヴィーザラ:シッ!!集中しろ!余計なことは考えるな。・・・殺すことだけを考えろッ!!
Sumomo:私はいつだって真剣にやってる!でも・・・・・今回だけは無理みたい。
あの人を殺すなんて・・・こんなの、こんなことって・・・・・
・・・――――私の目に映る彼女は、幸せ満面の笑みを浮かべる清らかな心の持ち主だった。
私がためらってしまう理由はきっとそこにあるんだ・・・。
Sumomo:できない・・・やっぱり駄目・・・!・・・・駄目なの!
罪のない人間を囮に使って殺すのはいけないこと。だって・・・あの人は何も悪くないもの。
平和を願っている、ただそれだけなのに・・・どうして・・・!
ヴィーザラ:・・・変な奴だな。今頃になって怖気付くのか?
・・・残酷だが、これは皇帝を誘き寄せる最初のシナリオにすぎない。
だが、このチャンスを一度逃してしまえば、全ての計画が水の泡になってしまうんだぞ!よく考えてみろ。
アストリッドのみならず、皆の名誉を傷つけることになるんだ。
ヴィーザラ:・・・そんな不安な顔をするな。安心しろ。俺が全力で守ると約束するよ。
何せ俺はお前に返してもまだ返しきれない借りが沢山出来たからな。
妙な気持ちが胸の底からこみ上げてくる。
今言った言葉に、どこか引っ掛かりがあって気にせずにはいられない。
借りって・・・・・・?ねぇ、ヴィーザラ・・・それって、どういうことなのか教えてよ
ヴィーザラ:今だ!放て!!
ヴィーザラのサポートのお陰か、右手でおさえていた矢を迷いもなく離すことができた。
放った一本の矢は勢いよく真っ直ぐ飛んでいき、ブスリと鈍い音をたてて見事にヴィットリアの胸を貫いた。
きゃああああああーーーーー!!!
ヴィーザラ:白いドレスは血で真っ赤に染まっているぞ。放った矢が命中したみたいだな。
・・・さぁ、今のうちに聖域に戻るんだ!
――――――――――――・・・
アスゲール:ヴィットリア!・・・ヴィットリアーーーー!
あああ!我が愛しの妻が何者かに殺された・・・!何てことだ!!
「花嫁が殺された!」
「殺したのはきっと帝国に違いない!ストームクロークに責任を押し付けられるようにな!」
「なんだと!?犯人が誰だか特定していないのに何故わかるんだよ!」
「殺るのはストームクロークしかいないわ!何も言わなくてもわかるもの。
あの下品で野蛮な奴等ならね・・・!!」
アスゲール:愛する妻が目の前で殺されたんだ!正気でいられるものか・・・!!
殺人犯を探せ!見つけ出したら、その場で処刑してやる!!
――――――――――――・・・
Sumomo:・・・・・・
ヴィーザラ:何をボーっとしてるんだ?アストリッドの言葉を無駄にするな!さっさと行け!早く!!
Sumomo:・・・!・・・う、うんッ!
大混乱の嵐の中、Sumomoは人混みを掻き分けて会場をあとにした。
―――――――――――――――――――・・・
ヴィットリア・・・あなたを殺そうとしたのは私なの。"許して"とすがっても聞き入れてくれないよね?
聖人のようなあなたなら、事情をすべて話せばきっと許してくれてたかな?
「この中庭ではストームクロークも帝国もないわ。平和と秩序に満ちたあたたかい人達でいっぱい。
2つの魂の結びつきを祝いに来た人たちだけなの。この楽しい時間を一緒に過ごしましょう」
――――― Sumomoは心の中でずっと祈り続けた。
清らかなる魂よ、どうか安らかに眠りたまえ・・・と ――――――。
清らかなる魂よ、どうか安らかに眠りたまえ・・・と ――――――。
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- 2014-09-06 :
- Sumomoの物語
【第27話】成熟した甘い香り
花嫁を殺すことが今回の役目であり、今までの内容とは格段に違う重要な任務の一つだと
Sumomoは感じている。気を引き締めて本番に臨まないといけない。
私の顔を多くの人が知ることになる内容だからこそ、何かにおびえている自分がいた。
聞こえし者としての自覚をしっかりもたないと、シセロにいつか笑われてしまいそう・・・。
自分を奮い立たせなければ!
アストリッドの言っていた公然たる殺人を必ず成功させなければ。・・・失敗してしまったら私だけじゃなく
闇の一党の皆の名誉に傷を作ることに繋がってしまう。
Sumomoはこれまで多くのプレッシャーと戦ってきた。今回も大丈夫だと自分に言い聞かせ
次の難題へと歩みを進める。
・・・―――――――――――――――――――――・・・
出発の準備を終えたSumomoは、朝食をとるために食堂へと足を運んだ。
朝の食事当番は誰か分からないけれど、お皿には美味しそうなパンやグリルされた野菜やチーズが
大雑把に盛られていた。
丁度食事が終わった頃、ヴィーザラが食堂に入ってきてSumomoの隣の席に座った。
ヴィーザラ:・・・よぉ。元気にしてたかい?見るところ食事があまり進んでないようだな・・・。
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シセロとヴィーザラが睨み合ったあの日から、私に対しての接し方が遠慮がちになっているのが
手にとってわかる。それでもヴィーザラは優しく、Sumomoを心配して声をかけてくれた。
ヴィーザラ:お前には借りを作ってしまった。その・・・何ていうか・・・礼を言うよ。
俺はお前との約束を守れず・・・申し訳なく思っているが、後悔はしていないさ。今は・・・幸せなんだ。
『え?・・・何の・・・こと?約束・・・・・・まさか!ヴィーザラが私の忠告を無視したなんてありえない。
アーンビョルンにもしもバレてしまったら・・・と思うと、怖い。
ヴィーザラとアストリッドの身に何かあっても知らないから・・・』
Sumomoはヴィーザラの顔をジッと睨んだ。
そんなSumomoをよそに、ヴィーザラは軽く片目を閉じてウィンクをした。
ガタッ!
Sumomo:ご馳走様でした。・・・またね!!
『信じられない・・・私の中のヴィーザラのイメージが崩れちゃったよ!』
Sumomoは足早に食堂を抜けて階段を駆け上がった。
階段を抜けた先には、飼い慣らされた蜘蛛のリスを眺めるバベットの姿がすぐ見えたが
Sumomoは避けるようにして静かに通り過ぎようとするも、ハッと何かの気配に
察知したバベットは、クルリと振り向いて急いで駆け寄ってきた。
バベット:どこへ行くの?待ちなさいよ、Sumomoッ!私を無視するなんて酷いじゃない。
腕を組んでSumomoの目の前にドーンと立ちふさがった。
バベット:せっかく披露宴のためにこのドレスを新調したのに・・・
Sumomoだけだなんてズルイ!本当ならこの仕事は私が受けるはずだったのに。
ねえ・・・私も一緒に行きたいわ!
Sumomo:急に言われても・・・駄目。・・・遊びに行くんじゃないんだから。これは重要な内容の仕事なの。
失敗は許されないんだよ?
バベット:でも・・・!・・・・・そうよね・・・私が行っても足手まといよね・・・。
バベットは肩を落として、ハァー・・・と深くため息をついた。
バベット:ねえ・・・Sumomo。私が一緒に行けない代わりに、せめてあなたの役に立ちたいわ。
結婚披露宴はソリチュードの神々の聖堂の外で行われるんでしょ?
参列客が居る中での殺人は安易じゃないのよね。そこで私が考えた花嫁を殺す方法を
2つ教えてあげるわ。
Sumomo:2つも?ぜひ教えてくださいッ!バベット先輩!!
Sumomoは顔の前に両手を合わせてバベットにすがった。
バベット:えへ!それじゃあ、まず一つ目は・・・
花嫁は披露宴会場のバルコニーから参列客に見下ろすようにして挨拶をするでしょうね。
そのバルコニーの上には何があると思う?
Sumomo:バルコニーの上・・・うーん・・・石で作られた屋根があるとか・・・?
バベット:ブー!正解はバルコニーの上には壊れかけの古い像があるのよ。
これをうまく倒せたなら・・・・・・・・・・・アハハ!
彼女は足で踏み潰された蟻の気持ちがよく分かるでしょうね、きっと。
バベットの口から小さな白い犬歯がキラリと光った。
バベット:二つ目は、この矢にベラドンナのエキスをたっぷり塗ったのを使って弓矢で射るの。
これは私が貸してあげるわ。矢は一本しかないから慎重にね。
あと・・・そのままだと手が滑ってうまくいかないと思うわよ?
弓を射るのに専用の手袋があったほうがいいかもしれないからソリチュードに着いたら
すぐレディアント装具店で購入したほうがいいわ。
バベット:油断しちゃ駄目よ。焦っても何も得られないから。殺しは上手に、計画的に・・・ってね。
・・・・ところで、さっきから気になっていたんだけど、そのドレスとっても素敵ね。
買ったの?それとも誰かから貰ったもの?
Sumomo:え?あッ・・・うん。・・・これは貰ったものだよッ。
バベットの視線は一瞬にしてドレスに釘付けになり、舐めるようにしてSumomoの周りを
グルグル回りながら黒いドレスをじっくり眺めた。
バベット:ふーん・・・羨ましいなぁ~。こんな貴重なドレス滅多にお目にかかれないわ!
この世に残ってるだけ不思議でしょうがないもの。よく購入できたわね。
ドレスをプレゼントしてくれた・・・男の人?
Sumomoの目が一瞬泳いだが、平常心を保とうと必死になった。それでもバベットには、お見通しかもしれない。
バベット:ちょっと落ち着いて聞いて。驚かすつもりはないけれど・・・・・・十分注意することね。
その黒いドレス・・・呪われてるわ。
Sumomo:え・・・ッ!
バベット:・・・どこかで見た気がするわ。遠い昔・・・何百年も前の。とても古い香りがする。
・・・血の匂いがすごくする。何百年も経っているというのに、どうして美味しそうな香りがするのかしら?
Sumomo:血の匂い・・・・・・?
バベット:ええ。成熟してる甘い香りよ。恋愛すると血が甘くなるのよ。特に若い女性はね。
このドレスの血には・・・甘さの中に苦味と冷たさが混じってるわ。きっと辛い思いを抱いて亡くなったのね。
バベット:・・・でもどこで見たのかはっきりと覚えてないの。ただ・・・高貴な女性が着てたような気がするわ。
それも亡くなる直前までね。彼女はそのドレスをとても大切にしていたようね。
・・・誰かの贈り物だったのかしら。
Sumomoは背筋が凍りついた。
バベットの話を聞いていると、このドレスの持ち主にずっと見られているような恐怖に襲われてしまった。
バベット:・・・ま、私の憶測ではあるけれど結構当たるのよ。
だってこのドレスについた血が物語っているんだから。
それにしても、高級な素材と最高の技術は今でも相当な値打ち物のはずなのにすごく勿体無いわね・・・。
プレゼントしてくれた人には悪いけれど、今じゃ深遠の暁の館長ような変人しか買い取らないわよ。
Sumomo:あはは・・・変人・・・。
バベット:Sumomo・・・しっかりね。
花嫁がどんな結末を迎えるか・・・帰ってきたら、たっぷりと土産話を聞かせて。楽しみにしてるから!
そう言うと、バベットは手を振りながら持ち場に戻っていった。
――――――――――――――――――・・・
翌日。
聖域から出たSumomoは、またホワイトランの馬屋近くの馬車を使ってソリチュードまで移動することにした。
『中間地点の都市での依頼はないのかな?いつも端っこばかりで疲れちゃうわ・・・』
今回も大移動となる長旅に、少し不満を抱くSumomoだった。
御者:お・・・!カジートのお嬢さんじゃないか。久しぶりだねぇ。
すっかり御者のおじさんとも顔馴染みになってしまった。
馬車に揺られながら、外の風景を眺めていると少し寂しさを感じてしまう。
確かに晴れた日は清々しいし、心もウキウキする。・・・けれど、Sumomoは雨の日に滅多に当たらないのだ。
よく考えてみると、シセロと一緒に帰ったあの日は酷い雨だったから、彼は太陽に相当嫌われていると思った。
シセロと私を足したらプラマイゼロで曇り空の日が多くなるという結果になる。
季節的に今は薪木の月で秋に突入しているけれど、この前までは収穫の月だった。
今年で最も雨量が最大だったらしい。
いずれにしてもタムリエルの北に位置してるスカイリムには、四季を感じる場所を見つけるのは
難しいかもしれない。
・・・そんなくだらないことを考えながら暇を潰していると、いつの間にかソリチュードに到着していた。
Sumomo:ホワイトランと違って、石造りの建物が密集してるわ。
さすがスカイリムの都会だなぁ~。・・・さてと、こうしちゃ居られない。バベットの言付けを守らなくちゃ。
ソリチュードの大きな門を通過したすぐ右手の建物には、他のお店よりも一際大きな看板が掛けられていた。
近付いてみると、その大きさがよく分かる。
『ここが・・・バベットの言ってたレディアント装具店ね』
―――――――――――――――・・・
店内に入ると、最初に目に飛び込んだのはカウンターにいる店主のエンダリーだった。
エンダリー:いらっしゃい。あら、ずいぶんと可愛いカジートさんだこと。
でも・・・所詮、私達には敵わないでしょうけど。
エンダリーは自慢気に鼻で笑うと、自然とSumomoが着てる黒いドレスに目をやった。
エンダリー:・・・・・・!そのドレスは、わたくし達の店から買っていったものですわね!?
まさか、あの変た・・・いえ奇妙な道化師の知り合い・・・なのかしら?
ターリエ:それとも、怪しい関係かどちらかね。
いずれにせよ、呪いのかかったそのドレスを手放せてよかったわ。
しかも沢山の金品が転がり込んだ。私たち、とてもラッキーだったのよね?エンダリー。
エンダリー:そうねぇ。あの男のおかげで当分の間は贅沢できそうよ。
『これ、そんなに高価なものだったんだ・・・。どうしてこんなの買えたんだろう?
沢山の金品・・・?宝石とか??・・・まさか・・・ねぇ』
ターリエ:ところで、御用があって私達の店に寄ったのでしょう?さっそくだけれど、あなた何をお探しなの?
ドレスの話はあっという間に終了し、早くも商売の話に切り替わった。
Sumomo:・・・え?ええと・・・弓矢専用の手袋を探してるんですが、私の友人によると
このお店に置いてあると聞いて・・・。
エンダリー:ええ。スカイリム一のレディアント装具店に無い物なんてございませんわ。
ですけれど、丁度手袋は品切れしてますの・・・。専用とまでは言いきれないのですが、一応
鹿の皮をなめして作られた、それらしい~物はございますわよ。
お値段は・・・300G・・・・・・すごく安物ですけれど。
そう言うとエンダリーは、棚上にあった手袋を取り出して無造作にカウンターの上に置いた。
Sumomo: これが300G?値段も手ごろだし・・・いただこうかな。今着てるドレスの色とぴったり。
ターリエ:やめるなら今のうちですよ!そんな使い捨てでいいのかしら!?
数日いただければ取り寄せも可能ですよ?
Sumomo:あ・・・いえ、急いでるので。これで充分です!
・・・高級なものはカジートの私には似合いませんので・・・あはは・・・。
エンダリー:そう言われれば、確かにそうねぇ・・・。
失礼な態度の店員にSumomoは少し苛々していた。
それに、これ以上会話は続く気がしなかったので目的だった手袋を購入し、Sumomoはさっさと
レディアント装具店をあとにした。
"この矢にベラドンナのエキスをたっぷり塗ったのを使って弓矢で射るの。
これは私が貸してあげるわ。矢は一本しかないから慎重にね"
バベットの教えてくれた方法で、うまくヴィットリアを殺すことができるだろうか?
弓を引いたことが無いし、いまいち自信が無い。
それに古い像をなぎ倒す怪力も備わっていないし、魔法だと発動する音で周囲に直ぐバレてしまう・・・。
『困ったなぁ・・・・・・』
トボトボと力の無い歩きで石の坂道を登っていく。しばらく歩いていても街中がやけに静かだった。
『もしかして披露宴の日程間違っちゃったのかなぁ・・・?』
なんだかいやな予感がしてきた。
小さな石のトンネルを抜けて、大きな広場に出るとそこはドール城の敷地内であり
ソリチュードの衛兵達の訓練場となっている。
その広場の奥には神々の聖堂・・・今回のターゲット、ヴィットリア・ヴィキが居るとされる披露宴会場がある。
少し覗いて様子を見てみることにしよう。
『あれ・・・!?・・・誰もいない!まさか・・・まさか・・・ッ!!』
そんな会場の様子にSumomoは慌てふためいていると、ソリチュードの街を巡回している
衛兵に声を掛けられた。
ソリチュード衛兵:そこで何をしているんだ?見慣れない顔だなぁ・・・。この街の者じゃないな?
Sumomo:はい・・・おっしゃる通りです。ですが怪しい者ではございません。
私は二人の新たなる門出を祝うために、タムリエルの南部エルスウェアーから遥々やって参りました。
・・・式はもう終わってしまったんでしょうか?
この日のために、新郎新婦へ捧げる祝福の言葉を考えてきたというのに・・・。
Sumomoは猫の特権である、可愛くて大きくて丸い瞳を潤ませながら自らの心境を切なく伝えた。
ソリチュード衛兵:う、うむぅ・・・エルスウェアーからか・・・
だったら何も知らないはずだな。
お前はそれ程悪い奴に見えないから、特別に教えることにしよう。
結婚式は明日、執り行われるそうだ。急に一日延びてしまったのだが、理由は知らない。
とにかく今日のところは何も無い。・・・安心するといい。
Sumomoは胸に手を当てて安堵した。
『時間が一日空いたことで、弓矢の練習ができるかもしれない。
あとは誰かから弓矢の使い方を教われば完璧なんだけど・・・』
ふらふらとゆっくりな足取りで聖堂前から離れようとしたとき、訓練場から大きな怒鳴り声が響き渡った。
ソリチュード衛兵:何をやっている!もっと腕を真っ直ぐ伸ばさないと安定しないぞ!
的の前で見習い衛兵達を厳しく指導してるのは、さっきの衛兵と違う別のソリチュードの衛兵だった。
どうやら弓矢について、この訓練場では一番詳しい衛兵なのかもしれない。
練習台も一つ空いていることだし、どさくさに紛れて自分も弓矢の極意を一緒に学べられたなら・・・
そんな悪巧みをしていると・・・
ソリチュード衛兵:・・・おい、そこの猫!練習の邪魔になるから離れろ!
Sumomo:ずいぶん口の悪い指導官ね!
私は帝国軍の手助けを少しでも手伝いたいと思って来たのよ?じっくり観察して
あなたの弓さばきを学ぼうと必死だったのに。それに私は猫じゃない!カジートよ!
ソリチュード衛兵:・・・あ・・・いや、今のはすまなかった。レディに対する言い方ではなかったな。
・・・しかし、そこに突っ立っていられると本当に迷惑なんだ。それに君の行為は妨害罪にあたる。
『ドキッ!』
ここで捕まってしまったら何もかも失ってしまう。逃げるか、それとも引き下がらないでまだ粘ってみるか・・・
Sumomoは真剣な眼差しで、衛兵の目をジッと見つめた。
ソリチュード衛兵:ふっ・・・ふふ。負けたよ。君のその心意気には関心した。
その目の奥の輝き・・・見れば見るほど、私の若い頃を思い出す。
Sumomo:・・・は?
ソリチュード衛兵:よぉし!見学だけじゃつまらないだろうから一緒に練習してみるか?
・・・それならば、妨害していることにはならないだろう?
Sumomo:え?うそッ!?やった~!ありがとうございます~!頑張ります!!
『案外すんなりいけてよかった。ラッキー♪』
ソリチュード衛兵:実際に弓矢を射ることが肝心だ。何度も失敗して修正しながら少しずつ体に覚えさせる。
それがやがて成功に繋がるからな。・・・お前ら、しっかりと体に叩き込めよ!!
「はいッ!」
トスンッ!
Sumomoは明日の本番に向けて弓矢の使い方を着実に学んでいった。
幸せの絶頂にある花嫁を殺すために――――――・・・
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- 2014-08-02 :
- Sumomoの物語
【第26話】血肉と道化師
第四紀188年 黄昏の月23日
事が落ち着いて、ようやく自分たちが置かれている現状が明らかになってきた。
現在の我々は、聞こえし者を持たぬ闇の一党だ。
聞こえし者がいなければ、黒き聖餐は見過ごされてしまう。
夜母が近々、誰かに話しかけることは間違いない。
従って、アリサンヌ・ドゥプレに取って代わる聞こえし者が選ばれるだろう。
第四紀189年 暁星の月24日
新しい年を迎え、最初に夜母がここシェイディンハル聖域に来てから2ヶ月経ったが
不浄なる母は我々の中の誰とも話そうとしない。
そこでラシャは古い闇の一党の伝統を復活させることを決めた。
それは夜母の遺体を守ることがただ1つの任務となる守護者・・・守りし者の任務である。
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―――――――――――――――――・・・
ある日のこと、ラシャは私を呼び止めて重大なことを平然な態度で告げた。
ラシャ:お前の耳にも既に届いているだろうが・・・。この度、闇の一党の古い役職が復活することとなった。
先ほどブラックハンドの会合でお前が守りし者と決定したよ。
シセロ:守りし者・・・夜母の世話だけが役目の?・・・・・・私が??
ガルナグやポンティアスがいるじゃないか。何故私が選ばれる・・・?
ラシャ:他の連中は戦闘に長けている・・・ということだ。それ以上は言えない。
・・・悪いが、守りし者に相応しいのは探してもお前しかいなかったんだよ。
ラシャの言葉が私の胸に冷たく突き刺さる。
任務を遂行し、これまで成し遂げてきた業績は評価してもらえないのだろうか?
・・・私に暗殺の素質が備わっていないとでも言いたいのか?
あの時ブラヴィルの夜母の墓地を守る、加勢メンバーに加えなかった理由はそのため?
ラシャ:・・・なんだ、その顔は。不服か?ブラックハンドの命令を拒むことは絶対許されない!
大きな声で喚かなくても分かっている。上の者の命令は従うことにしている。
ラシャは伝えし者であり、たとえ私が守りし者であってもラシャが断然地位が上なのだから。
当然守らなければ教義を破ることに繋がってしまうだろう。
ラシャは私に心の準備が出来るように、守りし者に就任するまでの残りの期間を
延長してくれると約束してくれた。
私はその日が来るまで、心残りのないよう剣を思い切り振るって・・・殺して、殺して、殺しまくるッ!!
・・・何もせずに後悔だけはしたくない。
嫌なら逃げてもいいと言われた。
少し思い留まったが、よく考えてみたら私には帰る家が無い。どうあがいてもこの道しか残ってないのだ。
・・・悲しさしか残らない。 苦しみしか味わえない。
――――――――――――――――――――・・・
ガルナグ:・・・守りし者?
・・・・・・嘗ては闇の一党に存在した役職だったとはなぁ・・・初耳だよ。
シセロ:私の持っている闇の一党の古い書物にも、守りし者に関する記述は一切記されていないんだよ。
聞こえし者が現れるまでの一時的な役職だと思いたいんだが・・・どうもラシャの様子がおかしい。
ガルナグ:ガハハハハハッ!じゃあ、ラシャが意地悪してるって言うのか?絶対ありえないぜ。
お前は逆に可愛がられてるほうだよ。大切な部下ほど最後の切り札は取っておくもんだろ?
死ぬ確率が高い依頼は俺の役目。生きて帰ってこれるのは強運だからだ。
『・・・それが暗殺者としてのプライドや誇りを傷付けるんだ。誰も私のことを分かってないじゃないか』
ガルナグ:安全な場所が見つかるまで守りし者は必要だと思うぜ。
管理なしじゃ、今ある夜母の姿を保てなくなるだろうよ。・・・ここは夜母の墓とは違って熱いからなぁ。
何百年も暗くて冷たい場所から離れての慣れない土地・・・さぞ辛い思いをしているだろう。
私が守りし者になることはそういう定めなのかもしれない・・・それは仕方の無いことかもしれない。
夜母の身体に触れられる・・・・・と言うことは、聞こえし者が不在な今
私に絶好のチャンスが訪れるかもしれない。 だけど・・・・・・
ガルナグ:何を考え込んでる?そんなに悩むことじゃないだろ。
シセロ:随分と鈍感だな・・・わからないのか?
ブラックハンドが下した命令は、私にとって人生で最悪な悲劇なのだということを。
シセロ:・・・暗殺者の命とも言える剣を一生振るえなくなるかもしれないんだ。
私にとっては重要な問題なんだよ!
一党内で特に仲のいい2人だったが、この日だけは違っていた。
シセロはガルナグに冷たい視線を送って直ぐに逸らすと、ガルナグは初めてハッとした顔付きになった。
それもその筈、シセロがいつも怒ったときには必ず口を尖らせているからだった。
・・・――――――――――――――――・・・
「知っているだろうが守りし者は夜母の身体の侵食が進まないように保護することがメインだ。
それ以外の仕事は何も無い。・・・簡単だろう?それで給料は今より倍は出す」
「・・・お前にとっては好都合だと思うが?何より死体を好んでいそうだしな・・・」
「最後の任務を与えよう。お前じゃないとできない仕事なんだよ。引き受けてもらえるか?」
・・・――――――――――――――――――――――――――――・・・
私はあの時のことをよく覚えていたが、今では忘れるようにしている。
脳の奥にその記憶を無理やり押し込めて、自分がさも見覚えが無いかのように振舞った。
そうすればやがて嫌な記憶が次第に薄れていくのだ。
けれどもあの光景は非常に現実離れしすぎていて・・・
時々現状が同じ形をとらえると、突然脳裏に蘇る。
・・・――――――――――――――――――――――――――――・・・
ん゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!
う゛ッう゛う゛ーーーーーーー・・・!
道化師:イッヒヒヒヒヒヒ・・・・!! 断末魔の叫びは美しい!・・・だが、今のは牛みたいな鳴き声だったなァ~。
アヒャヒャヒャ!ククク・・・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・これはこれでたまらないねッッ!!
ラシャが最後にくれた任務とは、この狂気に満ちた道化師を殺すことだった。
彼の出身はスキングラードだそうだが、街はずれにある小さな砦の地下で、貴族階級の者を招きいれては
毎夜怪し気なパーティーを開いていた。
噂によれば、城から運よく処刑を免れた罪人が奴隷として連れてこられ一人ずつ異国の拷問具に掛けるという。
奴隷の中には淫猥で冷酷な拷問を受け、息絶える者も少なくはなかった。
このような猟奇的なパーティーは、一部の貴族の間で今でも熱狂的なファンが増えている。
道化師は拷問具で身動きの取れなくなった女を殺し、ハラワタを引きずり出して喜んでいる・・・。
それは彼にとって当たり前の行いなのだろう。鬼畜とは正にこのことを言うのだと思う。
シセロはそんな光景を目の当たりにしてしまい、珍しく顔色が青ざめた様子だった。
道化師:君の名はシセロといったね?もっとこっちに来て観察してごらんよ。
クククク・・・・・・この腸、まだ温かいんだ。ハハッ!!
一緒に縄跳びしないか?楽しいよぉ??ほらほら、早くしないと腐っちまうよぉ!!?
シセロ:驚いた・・・お前みたいな奴、闇の一党中探してもなかなか見つからないよ。
これは・・・悪趣味の域を超えている・・・。
道化師:ギャハハ!!私のことを世間では鬼畜というのだろう!?
何度言われたって平気だ!これが私の正常の範囲内なんだからさ。
これはね、芸術作品なんだ。触れていいのは私と私の嗜好を理解できる者達だけなのだ!
・・・だが、今回は特別にお前を仲間に入れてあげよう。
これが終わったら、スキングラードの砦の地下へ招き入れてやる。
奴隷を拷問具に掛けて、その光景を眺めながら高級酒を味わい、贅沢な料理を食べて
愉楽な時間に浸れるんだ!最高だろう!?・・・ね?
シセロ:悪いがお断りだ。・・・私には到底理解できない!
道化師:ほぅ・・・本当に惹かれるものが何もないと?おかしいなぁ・・・私とお前は似ていると思っていたのに。
『誰がこんな狂人に似ているだって?私は違う!決してありえない・・・』
道化師:・・・自分を認めることができないのか?
急がなくてもいいさ。私と一緒にいれば、徐々に理解しあえる仲になれるはずだよ。
お前の為に美しいマリオネットを沢山用意してあげるから・・・。
道化師は息絶え冷たくなった女の方へと近付き、シセロに見せ付けるようにして
ピチャピチャと音をたてながら身体中を愛撫した。
・・・――――それはシセロにとって、幼い頃の記憶を彷彿させるような光景と重なって見える。
この不思議な感覚はシセロの胸を震わせて、より一層熱くさせた。
シセロ:・・・・・・。
道化師:お前もあるだろう?覚えているはずだ。私と同じで、独占欲が強い人間なんだろうね。
ん?その目は・・・人の心がなぜ見通せるのか不思議でならないのか?
・・・私は普通の人間よりも抜きん出た力があるからだ・・・イヒヒヒ・・・
詳しく話せば長くなるが、率直に言うと私は洞察力の塊みたいなものだよ。
『・・・そうすると、彼には人の心や過去を読み取る能力があると?いずれにしても
危険な人物には変わりない。早々と始末したほうがよさそうだな・・・』
シセロ:・・・もう十分だ。この辺で終わりにしてくれないか?
その女も鎖に繋がれたままではかわいそうだろう?・・・早く土に埋めてやりたい。
道化師:何を言い出すかと思ったら・・・・・・ハハハハハ!!
笑わせるなよ!!かわいそうだぁ!!?・・・何も知らないくせに・・・大きな口を叩くな!
コイツは私との忠誠を誓ったばかりだというのに、すぐ裏切ったんだ!2度もな!!
それ相応の報いを受けるべきなのだ!!
道化師は発狂して女の首を鷲掴みにし、声を荒げて怒りをぶちまけた。
道化師:・・・この女はなぁ・・・私の妻なんだよ。私に殺されて・・・とても幸せだったと思う。
今頃どこを彷徨っているのやら・・・・・・・・・もうすぐお前の傍へ行くよ・・・。
さっきまでとは一変した口調で、女の耳元に静かに呟くと、彼はそのまま強く抱き寄せ
ピクリとも動こうとしなかった。
そんな道化師に少しだけ隙ができたところで、シセロは黙っていなかった。
そっと背後へ近付き、そして・・・ドッ!!っと勢いよく昏倒させ、そのまま上半身に跨り強く押さえ込んだ。
シセロ:悪いが・・・お前の行く場所は決まっている。我等が常闇の父の元へお前の魂を捧げる・・・。
シセロは、鞘からナイフを取り出して道化師の胸の上に軽く突き立てた。
道化師:うぐッ!・・・ヒィ・・・ヒヒヒ・・・・・・・・!!やっぱり・・・やっぱりこうなると思ってた。予想していた展開だ。
だってそのナイフで一突きにする隙は沢山あっただろぅ?一気に刺せばよかったものを。なぜそうしなかった?
私は道化師の問いかけに答えなかった。今余計なことを考えてしまったら殺し損ねてしまいそうだ。
早くこの場から立ち去るためにも、ナイフを胸部に深くねじ込んで終わりにしてしまおう・・・。
道化師:・・・・・・好きにするがいい・・・。
押さえつけられて身動きひとつとれない哀れな男になにができるっていうんだ?
お前の顔を見つめることしかできないんだぞ?
・・・・それにしても、こう間近で目が合うと怖いなぁ・・・本物の闇の一党だぁ・・・クフフフ!
あれ?お前の股間がすごく熱くなっているよ・・・。心なしか私の心臓がバクバクしてきた。
何故だろう?・・・この私が怖れを感じているのか?ありえないぞ。それとも・・・
・・・!? か・・・勘違いしないでくれよ!?私はバイセクシュアルじゃないさッ・・・・・・!!
生死の瀬戸際にいるというのに、道化師からは恐怖感を微塵も感じない余裕な態度が
シセロにとって恐ろしかった。
殺したくてもナイフを握る手が震えているようで、なかなか言うことを聞いてくれない。
道化師:フフフ・・・私がお前の脅威ならばそのナイフで早く突き刺せ!
慣れた手付きで残酷に殺せ!!
・・・そして死んだ後の私の亡骸はお前の好きにするがいい。今までしてきたような
恥ずかしい行いをさ!!ほら・・・古血があそこにベッタリ付いてるじゃないか。
シセロ:それ以上言うな!お前の挑発になんか乗りたくない。・・・黙って逝け!!
・・・お前は不幸にも私の手によって死ぬ運命なんだ。お前の妻の代わりに怨みを込めてね。
道化師:・・・・・・ハハハハハハハ!!!妻は随分と好き勝手に過ごしてきたんだ。
私の知らないところでコソコソとね・・・・・・。逆に私のほうが憎しみで一杯なんだよ!!
思い出すと今でもハラワタが煮えくり返りそうだ・・・!
・・・私だけを見つめられず、私だけに尽くせなかった女に罰を与えて何がいけないというんだ?
神に代わって私が裁きを下しただけだというのに!
・・・これのどこが悪いんだよッ!!?
お前も同じじゃないかーーーーーーーッ!!!
誇りが何だ!? プライドとは何だ!?
私とお前は同じだ・・・
奇怪で狂気で猟奇なところがね。
記憶の片隅に隠れているお前の邪悪な部分を見つけたい・・・
クッククク・・・・・ハハハハ!アハハハハハ!!!
ザクッ!!
・・・――――――アアアアアア!!!
『違う・・・違う・・・・・』
アハハハ・・・ハハ・・・・・ヒヒヒ・・・
シセロ:終わりだ・・・・・・もう全てが・・・・終わったんだ・・・暗殺者としての人生が・・・
・・・フッフフ・・・・・・クククク・・・・・・・・・。
第四紀189年 暁星の月30日
道化師は横たわって死んでいる。これで最後の任務は完了だ。
彼は笑って笑って笑いまくっていた。笑えなくなるまで、ずっと・・・。
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- 2014-06-28 :
- Sumomoの物語
【第25話】心に絡まるツタ
標的は皇帝タイタス・ミード2世の従姉妹、ヴィットリア・ヴィキ。彼女の死は街に大混乱を招くでしょうね。
・・・現在の情勢下で殺人が起きれば、人々は帝国とストームクロークの対立から起きたものだと考えるはず。
人目を引くやり方なら、どんな手段でも構わない。それこそこちらの狙いなのだから。
・・分からないかしら?そうなれば、皇帝が直接手を下さざるを得なくなるの。
後始末のためにスカイリムへと来るでしょうね・・・
私の狙い通りに行けば、そこへ闇の一党が待ち伏せしてるというわけ。
ソリチュードの街が一生忘れられないような、祝賀パーティをプレゼントしてきて。
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――――――――――――――――・・・
シセロ:・・・え?アストリッドの命令で花嫁を殺すことになったんだって?
シセロ:面倒な任務を負わされたねぇ。もし見つかればソリチュード兵の何百、何千という軍勢が
一斉に襲い掛かってくることになる。・・・もしそうなれば・・・・・・ぶるるッ・・・!想像しただけでも凍りつくよ。
Sumomo:・・・上流階級だけの集まりかと思ってたのに、一般市民も招いての披露宴らしいから・・・
もし殺したのがバレてしまったら、現場は大混乱になっちゃうわ。
・・・ずっと一人で考えていても解決策はみつからなさそうだし、後で闇の一党の皆に聞いてみるしかないかな・・・。
しかもこんな汚れた服装で行ったら、それこそ怪しまれちゃいそうで・・・
アストリッドが指摘した通り、披露宴に見合ったドレスの調達もしなきゃ。
シセロは突然、指をパチンと鳴らした。
シセロ:聞こえし者ぉ~!ナイスタイミングだ!いつ言おうかとドキドキしていたのだ。
以前約束していた物を今、渡す時がきたよ。
そう言うとシセロは鼻うたを歌い、隠してあったドレスをSumomoにプレゼントした。
Sumomo:え・・・えええ!!うそッ!・・・・・・これを私に?貰っていいの?
シセロ:まったく気にする必要はない。何故なら夜母に選ばれし聞こえし者だからだ。
部下である私からの貢物がなくては、おかしいだろぅ?
聞こえし者は事実上、闇の一党の最高位なのだから胸を張って堂々として欲しい。
・・・だが、この環境下だとまだ実感が沸かないのも無理はないね・・・。
あぁ、それと・・・もう一つ別な物もあるのだが・・・・・。
シセロは少しためらいながらもテーブルの上にそっと出した。それはヒールの高い黒いブーツだった。
Sumomoは恐る恐るそれを手に取りブーツ底のイニシャルを念のために確認した。
そこには"S"の文字が刻まれている。明らかにSumomoが以前失くしたブーツと同じ物だった。
Sumomo:どうして私のブーツをあなたが持ってるのッ!?まさか・・・こんな趣味を持っていたなんて・・・
シセロ:へッ!?・・・勘違いしないでくれよォ!
聞こえし者のブーツが酷く傷んでたのを前から知っていたんだ。
修理しないであのまま履き続けていたら、怪我をするところだったかもしれない。
Sumomo:え・・・そうなの?・・・そこまで考えてくれていたなんて・・・。
でも私のよりよっぽどあなたの服のほうが・・・酷いんじゃない?
ツンとシセロの服を軽く引っ張ろうとすると、シセロは避けるようにして一歩後ずさった。
シセロ:あぁ、いいんだよ。・・・これは記念に貰った物で・・・い、いや・・・なんでもない。
私のことは気にしないでほしいのだ。
シセロは珍しく慌てた素振りで何か言いかけたが、口を直ぐに噤んでしまった。
その道化師服には何か思い入れがあるらしい。Sumomoはこれ以上深く追求することはしなかった。
Sumomo:ごめんなさい。悪気があってやったわけじゃないから・・・。
シセロ:何も問題は無いよ。シセロは怒ってない。
・・・そんなことより、これをさっそく試着してみないか?
私は聞こえし者がこの漆黒のドレスを着た姿を早く見てみたいのだ。・・・あああ~待ちきれない。
見たい・・・見たいッ!
シセロの目がキラキラと輝いているように見えた。そして、ギュッと強く握られた拳には
力が込められている。
Sumomo:はッ!・・・その目は・・・怪しい・・・何か企んでるなぁ~?
シセロ:―――――!? 馬鹿を言うな!決して、いやらしいことを想像していた訳ではないッ!
これは・・・聞こえし者に対して当然あってはならないことだ。
Sumomoは無言で更にシセロに冷たい視線を送り込んだ。
シセロ:シセロを疑ってる?疑っているのかぃ??・・・・・・いや、うん、そうだね・・・へへ。
今のは強がっていただけだ。・・・ちょっとは思っているよ・・・男だからねぇ・・・へへへ。
・・・正直、聞こえし者の生着替えが間近で見れるとは、非常に貴重な体験・・・・
ゴッ!!※殴った音
――――――――――――――― 数分後。
Sumomo:・・・どうかな?ウェストにはあまり自信なかったんだけど・・・
きつくもなく緩くもなく・・・意外とピッタリはまった感じかな。
・・・!? あ、あんまりジロジロ見ないでよッ! ・・・恥ずかしいんだから。
Sumomoはシセロの目線から逸らして、俯いた。
シセロ:さすが私が選んだだけのことはある。やはり聞こえし者には漆黒の衣装が一番似合うねぇ。
はぁ・・・しかし、着替えるところを観察できなかったのは非常に残念に思うよ・・・。
『諦めが悪いなぁ、まだ言ってる・・・』
Sumomo:・・・シセロの気持ちはこれでよく分かったわ。
こうして二人きりになった時でしか言えないかもしれないけれど・・・・・・
・・・私のことを気遣ってくれて、ありがとう。
照れながらもシセロの顔を真っ直ぐ見つめ、感謝の気持ちを伝えた。
Sumomoのその姿を見て、シセロの顔に笑みがこぼれた。
シセロ:・・・クスッ。私の心は少し満たされた気がする・・・だが、まだ十分じゃないんだ。
果たして言いたいことはそれだけなのか疑問だよ。
"身内"は今のところ2人だけなんだし、ほら・・・周りには誰も居ないんだ。
だからもっと聞きたいよ・・・聞こえし者の心髄をねぇ。
Sumomo:え・・・?わ、私にはこれ以上のことは何も出てこないよ。
・・・何かあったとしても、今言うべきことじゃないと思うの。
私にはまだ余裕がないし・・・今請け負った任務がどれだけ私に負担になっているか。わかるでしょ?
・・・あなたは嘗て殺しのスペシャリストだった。
今までの経験を思い出せば、きっと今の私の辛い状況を把握できるはずよ。
・・・――――――――2人の間にしばらく沈黙が流れた。
シセロはその場の不穏な空気を感じつつ、顎に手を当てたまま考え込んだ。
Sumomoはシセロの顔をジッと見つめ、答えが返ってくるのを待っていた。
シセロ:・・・・・・。聞こえし者に従わなければ・・・。また我慢しなければならないのか。
いったい、いつまで耐えればいいのだ?・・・この寂しさに。
Sumomo:寂しい・・・?嘘・・・。私が居ても居なくても・・・・・・そうよ、あなたには夜母がいるじゃない。
シセロ:・・・・・・。
聞こえし者はそうやって私から逃げるのだね・・・。
夜母への愛を失ってしまえば、私が守りし者としての意味が無くなってしまう。
・・・それは言うまでもないことだ。
古き慣わしを守る為に、聞こえし者を守る為に・・・Sumomoが"嫌な連中"との係わり合いをもつことは
出来るだけ避けさせたいのが、シセロの本音。
唯一、シセロにとっての家族はSumomo・・・・ただ一人のみだった。
聞こえし者の存在が大きくなり始めると、シセロを一層苦しめた。
焦りと、もどかしさが入り混じり、気が休まることはもう無い。
"聞こえし者が私から離れていってしまうのではないか?"・・・という恐怖心すら覚えてしまう程だった。
"危険から守りたいという愛"とそこからいつの間にか発展していった
"特別な感情となった愛"・・・・。
この2つの愛が異なっていることを、シセロはあまり理解できずにいた・・・。
「披露宴で花嫁を殺す計画も特別なものにしてあげなければ。
人生で一番幸せな記念日に美しい姿で死ねるんだから。迷える魂を虚無へと送ってあげようよ・・・」
これまで愛してきた兄弟姉妹以上に、私は私なりの愛情を聞こえし者へ捧げる。
聞こえし者への愛おしさが芽生えなければ"寂しさ"を感じることも無かっただろうけど・・・。
――――――――――――――――――――――・・・
幼い頃、私は今よりも不幸だったし孤独だった。だから何もかも手探りで生きてきた。
親の愛情など知らない。
どんなものだったのか・・・ただ覚えていないだけなのか?
手に入れたかったものを得ることは、そんなに難しくはなかった。
・・・それが周りの大人たちの目にどう映っていたかは分からない。
――――――――――――――――――――――・・・
シセロは執念を燃やす。
・・・・・・―――――――――――"誰にも奪われたくない"と。
それがたとえ奇怪な行為に映ったとしても、私はいつか木の蔓となり聞こえし者を我がものとするだろう。
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- 2014-05-27 :
- Sumomoの物語
【第24話】ソリチュードの不審者
ふとしたことで、孤独は急に襲ってくるのだ。
今までどんなことでも耐えてこれたのに、近頃限界に達する時が頻繁になってきた気がする。
どうやら聞こえし者の存在が、大きいせいだからなのかもしれない・・・。
それと私によく似たアイツが語りかけてくるのも気になるところだ。
故意に聞こえし者の殺人をすすめてきたのはいったい・・・?
・・・さては私に教義を破らせて、単に罪を被せたいだけなのだろう。
私以上に孤独な環境下なのだから、"自分の傍に置きたい気持ち"はわからなくもないが・・・。
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――――――――――――――――――・・・
アストリッド:戻ったのね。それで・・・例のアミュレットは本物なの?
Sumomo:・・・はい。元老院のメンバーの一人に特別に作ったものだそうです。
あとそれから、これをアストリッドにと・・・
デルビンから貰った信用状をアストリッドに手渡した。
内容を確認したアストリッドの顔は、ニヤリと笑みを浮かべて言った。
アストリッド:すばらしい・・・・!これなら、次の工程に進んでもよさそうね。
何を言われても夜母が話をしたのなら・・・あなたに全てやってもらうしかないのよ。その責任は重要よ。
Sumomo:そうですね・・・そうかもしれません。
Sumomoは少しうつむきながら答えた。
アストリッド:ところで、何かいいドレスは持ってる?
・・・その様子じゃ、何も持っていないようね。怪しまれないように綺麗な服を用意してきて。
・・・・・・次の仕事は、結婚式に混入するのよ。
Sumomo:え・・・結婚式?・・・今回の仕事と、どういう繋がりが・・・?
アストリッド:・・・結婚式というより、披露宴に近いわね。一生記念に残るような・・・
素敵な行事になるはずよ。招待客とおしゃべりして、ケーキを食べて・・・花嫁へ入刀。
そう・・・花嫁を殺すの。標的は皇帝タイタス・ミード2世の従姉妹、ヴィットリア・ヴィキよ。
――――――――――――――――・・・
シセロ:お前はなぜあそこにいた?お墓の前で何をしていたんだ・・・?何か言ったらどうだ・・・?
ふーむ・・・おかしいな・・・私の尋問は優しいはずなのに・・・。
「・・・・・・」
このテディベアを拾ったのは、私がソリチュードに到着して間もなくの頃だった。
・・・――――――――――――――――――――――・・・
私は聞こえし者への贈り物を用意するために、レディアント店へ向かっていた。
民家のある路地を歩いていると、石垣のすぐ下に小さな墓地があった。
何気にそこへ目をやると、墓石の前で氷のように一歩も動かないまま立っている一人の幼い少年がいた。
よく目を凝らしてシセロはジッと見つめる。
悲しみと憎しみとが入り混じった複雑な表情をしていた。・・・その少年の顔に見覚えがある。
あれは・・・・・・・私・・・?
疑問を自分に問い続けていると、道化師のアイツが囁いてきた。
『・・・近付いてごらんよ。私からの贈り物だ・・・きっといい物が見つかるよ』 ・・・と。
まだこのとき姿は見えていなかったが、私の頭の中でハッキリと声が聞こえてきたのだ。
不思議なことに道化師がしゃべる度、私の頭はボーっとする。
催眠術にかかったようにして、ふらふらしながら墓石近くまで足を運んでいた。
そして少年の元へ近付き、声を掛けようとしたその瞬間、幼い姿はスゥーと闇に消えてしまい
代わりに現れたのは青い色のテディベアだった。
・・・今のは私の遠い幼い記憶が、幻影となって現れただけなのだ。
それにしても墓の前で幼い私はいったい何をしていたのだろう?
そうして自問自答を繰り返しながら、レディアント装具店に着いた。
ターリエ:いらっしゃ~い!・・・・・・えッ・・・・・・
店員は目を丸くして、シセロのリュックに視線を注いだ。
『なにこの人・・・熊のリュックなんか背負って、そんな年齢でもないでしょうし・・・なんだか気味が悪いわ・・・』
露骨に嫌な表情を浮かべる店員に対して、シセロは冷たい視線で睨んだ。
エンダリー:ひッ!・・・・・・ど、道化の服だなんて珍しいですわ。珍品といってもいいくらい・・・
なんとも素敵な、お召し物ですこと。
ターリエ:ええ、ええ・・・赤いお色が引き立っていて・・・擦れた生地が良い味を出してますよ。
道化師のお茶目さと、ハンサムな顔立ちが絶妙なバランスです!
シセロを明るく振舞い出迎えた店員だったが、その表情は硬く引きつっている。
シセロ:君たち、何を訳のわからないことを言っているんだ?
おだててるつもりだろうが、シセロはちっとも嬉しくない。
それに私は、ここで時間を潰してる余裕はないのだ。一刻も早く最高のドレスを購入して
我が家に帰還したいんだ。
シセロ:タムリエルで最高のドレスを探している。私にとって偉大な方への贈り物・・・失敗は許されない。
シセロはカウンター奥の小部屋に、ディスプレイされているドレスを指差した。
ターリエ:あら・・・お客様、あんな真っ黒なドレスを選ばれるなんて・・・
大変お目が高いですのね。・・・とゆうか、ここから死角になっているのによくお気付きになられましたね。
店員のエンダリーは、黒いドレスを手に取りカウンターへ運ぶと自慢交じりの説明を始めた。
エンダリー:このドレスの生地の大部分は最高級のヴェルベットとカシミヤを交互に織っていますのよ。
綺麗に織り込むことは大変な技術がいりますの。刺繍部分はプラチナ糸でほとんど縫いつけてます。
したがって、この糸のおかげでお値段が倍以上に跳ね上がりますのよ。そして・・・
擦れに弱いので、一部分にだけシルクを使用してますわ。
ターリエ:肩の出るドレスですが、寒いスカイリムでも十分保温性に優れていますよ。
でも・・・・説明の最後で恐縮ですが、これは売り物じゃないんです。
200年前のある貴婦人の憎しみのこもった、曰く付きのドレスなんですよ。なので・・・
他のお客様は気味悪がって誰も近付こうとしません。
店員の説明をよそにシセロはテディベアを下ろした。
なにやらテディベアの腹の辺りで、ジャラジャラと細かな音がする。気になったシセロは
すかさず中身を確認しようと背中を見たが、ファスナーらしきものがどこにも見当たらない。
強引にテディベアの片足を持ち上げた途端、首の付け根から眩いばかりの宝石が
店内の照明をうけてキラキラと落ちてきた。
ターリエ:あ・・・あ・・・
エンダリー:まあ・・・!信じられない・・・高品質な宝石が沢山・・・!!
エンダリーは目を輝かせてうっとりしている。
ターリエは口をポカンと開けて、その光景を眺めるだけだった。
カウンターには山積みとなった宝石が、店員の心を見事に掴み込んだようで
黒いドレスの取引はスムーズに行われた。
『アイツが言っていた、いい物とは宝石のことを指していたのか?』
何気にテディベアの首の隙間から中身を覗こうとしたシセロ。
わずかな光を頼りに目視した内部は、赤黒く染まっているように見えた。
店を出た後夜空を見上げると、先ほどよりも分厚い雲が覆い尽くしていて暗さが更に増していた。
この暗闇も夜風の冷たさも静寂さも、シセロにとって心地良かった。
悲しみや恐怖を感じることは、シセロにとって無縁なはずだった。
・・・不意に、道化師のアイツが囁けば、忘れかけていたあの悪夢が蘇る。
レディアント装具店から道を挟んだ向こう側を、一人の少女が小走りで通り掛かった。
不意にシセロが顔を上げると、少女と視線が重なった。
シセロ:・・・。
『あの頃の緊張がとても懐かしくて・・・人を殺したくてたまらない?・・・欲望が抑えられないみたいだね』
・・・―――――と、私を惑わす男の囁きが風と共に耳を撫でる。
母よ・・・私はいったい、どうしたらいいのですか?
・・・この剣を振るえる日はいつ訪れるのだろうか?それだけをずっと考えてた。
もう一度だけでいい・・・あの手の感触を、また味わいたい・・・それが本当の気持ち。
"上の者の命令ではない限り、あってはならない事"なんだとそう自分に言い聞かせて
理性を抑えようとする気持ち。
私の心に迷いが生じるとき、道化師が必ず登場する。
『誰よりも目立ちたがりのお前が、今では立場が危ないし皆お前を避けたがっている。気味悪がり近寄ろうともしない。
私は同情するよ・・・。私とお前は似ているね・・・だからずっと傍にいる。・・・名誉を取り戻そう』
・・・―――――そうだ、あの懐かしい日々。あの頃の自分に戻りたい。
また生暖かい血の香りを・・・・
シセロの右手がナイフの鞘に触れた。
シセロ:可愛いネリーと出会ったら・・・ナイフをお腹に・・・・
シセロ:・・・・・・・・・突き立てよう。
「ヒィッ!!」
悲鳴を上げて少女は走り出し、ソリチュードの中心街へと消えていった。
・・・違う。・・・こんなの、ただの人殺しだ。
嫌だ・・・・・・今の闇の一党と同じじゃないか・・・。
・・・――――――――――――――――――――――・・・
・・・――――――――――――――・・・
嫌だ・・・・・・今の闇の一党と同じじゃないか・・・。
・・・――――――――――――――――――――――・・・
・・・――――――――――――――・・・
シセロ:・・・まぁ、いい。なにか事情があって何もしゃべられないんだろう?
お前が助けてくれなかったら、今頃は手ぶらで帰ってきていたはずだ。
「・・・・・・」
シセロ:感謝しているよ。・・・私たちはあの瞬間から友達なんだ。
テディベアに幼い自分を照らし合わせ、過去の記憶の思いを馳せていく。
・・・―――――果たしてシセロの過去とは、いったいどんな風景だったのだろう?
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- 2014-04-26 :
- Sumomoの物語