平常心を保ちつつ、棺の中へ身を潜めること30分・・・。
鼻歌を歌いながら、誰かがだんだん棺に近付いてくるのを感じる。
この声は・・・シセロだ!シセロ:・・・・・・私達2人だけなのか?・・・そう・・・そう・・・2人だけ。愛しき孤独。
何者にも聞こえず、何者にも邪魔されない。全ては計画通りに進んでいる・・・。
ほかの者・・・・彼らにも話した。皆いつかきっと気付くだろう。ウィザードの
フェスタス・クレックス・・・もしかしたらあのアルゴニアン・・・あの吸血幼女―――・・・
ヒッヒッヒッヒ・・・・・・貴女はどうなのですか!?・・・貴女は・・・・・・誰かに話されたのですか・・・?
いや・・・いや、勿論ないですとも。話して・・・尾けて・・・見て、喋るのは私の役目!
・・・だが、貴女は何をしてくれた?・・何一つない!
も・・・もちろん怒ってなどいないよ!・・・絶対にない!シセロは分かっているよ・・・へへ。
シセロはいつでも分かっている!・・・いつだって・・・従うよ!
はっきり言ってショックだった。2人でおしゃべりした時とは打って変わって・・・今のシセロは狂気に満ち溢れていたからだ。
・・・まだ1巻だけしか読んでいないあの日記。
何度照らし合わせても同じ人とは思えない。
精神状態が不安定になった原因は
いったいなぜ・・・?
シセロ:話しかけられる時が来たら、喋ってくれるよね?そうだよね・・・?愛しい夜母よ・・・・・・
・・・棺の中は真っ暗だった。この空間だけが静かだった。・・・だが、
目の前にある夜母の遺体が、暗闇に徐々に浮かび上がってくるのが分かった。
・・・―――――――その時。
夜母:・・・憐れなシセロ。・・・かわいいシセロ。・・・慎ましやかなる僕。
あいにく・・・かの男に私の声は届かない・・・聞こえし者ではない故に。シセロを心配する夜母の言葉はちゃんと聞こえていたけれど、私は恐怖に駆られて
パニック状態になった。
『ぎゃぁーーーーー!! 聞こえない聞こえない聞こえ・・・』
夜母:・・・おお、私のこの声が・・・あなたには聞こえていることでしょう。・・・選ばれし若者よ。『聞こえない、聞こえな・・・・・両耳塞いでるのに、頭の中で聞こえるぅ・・・』
それは何とも言えない不思議な感じだった。だけど、選ばれし者って・・・?
まさか・・・夜母:・・・そう、あなたのことです。Sumomoよ。あなたに使命を授けます。
・・・ヴォルンルードへ赴き、アマウンド・モティエールという男から話を聞くのです。
『私が・・・
聞こえし者なの??・・・それはちょっと、困る・・・』
シセロ:哀れなシセロは貴女を失望させた・・・!哀れなシセロは謝るよ・・・愛しき夜母よ。
・・・・・とても・・・とても、頑張ったんだ。けれども、どうしても聞こえし者が見つからないんだ・・・!!
棺の前でずっと喋り続けているシセロを夜母は見かねたのか、また私に語りだした。
夜母:・・・シセロに時が来たと告げなさい。
かの男が幾年も待ち続けた言葉を聞かせてやるのです・・・。沈黙の死す時、闇は昇る・・・と。
『
ずっと、シセロが待ち望んでいた言葉・・・これだったんだ!』
興奮しすぎて思わず体が動いてしまい、扉が自然に開き棺から放り出されてしまった。
ギィ・・・バタンッ!シセロ:な・・・何!?お前は・・・・
私を発見した、シセロの口元が少し震えていた。
シセロ:いったい何をしていたんだ!?・・・裏切りだ!冒涜者め!堕落者の冒涜者だ!
・・・お前は、神聖な夜母の墓を侵したんだ!説明するのだ!!
Sumomo:ごっ、ごめんなさい・・・!その、夜母が私に話しかけてきて・・・
選ばれし者と・・・。
シセロ:彼女が・・・話したと?更なる裏切り!更なる・・・権謀と虚偽だ!
・・・お前は嘘をついている!夜母は聞こえし者にしか話さない!
そして・・・聞こえし者など・・・・・・居ない!!シセロの怒った顔・・・本気で怒った目つきが怖すぎる。
シセロ:・・・ラシャと同じような醜い死に方をするか?
虚無でカジート同士仲良く・・・。
・・・早く話せ!蛆虫!!
皮肉交じりにシセロは言った。
『ラシャって・・・・誰のことだろう?この前話してくれた自分を聞こえし者と
嘘をついたという男のカジート・・・・・・?』
どういうつもりで言ったのかは分からないけれど、少し悲しい気持ちになった。
Sumomo:あああああ・・・あの、待って!続きがあるの。
夜母はあなたにこう、告げよ。とおっしゃってたわ。
沈黙の死す時、闇は昇る・・・って。
シセロ:彼女・・・・彼女がそう言ったのか?
沈黙の死す時、闇は昇る・・・と?
だが、それが言葉だ。
呪縛の言葉。遵守の書に書かれていたもの。
私が分かるための兆し・・・。
母が愛する、シセロに話すたった一つの方法・・・・・・。
目を開いたまま数秒間動きが静止していたが、いきなりシセロの表情が
180度ガラリと変わり、手を叩いて踊りだした。
シセロ:では・・・真実なんだね!?彼女が戻った!夜母が戻ったんだ!
そして聞こえし者を選んだ!・・・お前を選んだのだ!偉大な聞こえし者に栄光あれーー!ハハハ!
私はその姿にただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。
『何・・・この、変わりよう・・・・・・』
聞こえし者の誕生にその場は祝福ムードになっていたが、アストリッドの登場によって
この雰囲気を瞬時にかき消されてしまった。
アストリッド:シシスの名にかけて、これで終わりよ!愚か者め!
あなたの計画が何であれ、ここまでよ!
・・・Sumomo、大丈夫?騒ぎを聞いたわ。シセロが話をしている相手は誰なの?
いったい、どこに居るのよ?・・・ええい!裏切り者め、姿を現しなさい!
シセロ:私は夜母にしか話しかけていない!彼女に語りかけたけど、彼女は口をずっと閉ざしたままだった。
彼女は聞こえし者にしか話さないのだ!・・・そして、たった今Sumomoが選ばれた!本当、本当なのだ!
夜母が話しかけてきた!静寂は破られた!聞こえし者が選ばれたのだ!
アストリッドの視線がシセロから私へと注がれた。
アストリッド:・・・なんですって?聞こえし者?
シセロが夜母と話をしていたのは知ってるわ。でも、夜母があなたに話かけたですって?
ふざけてるつもり!?
Sumomo:すみません・・・事実です。頭の中で夜母に話しかけられて
選ばれし者と・・・。
アストリッド:ということは・・・シセロは誰とも話していなかった。
ただ、夜母の遺体に語りかけていただけだったということ・・・?
私達の知る限り、聞こえし者として選ばれた者にしか夜母は声をかけない・・・その夜母が話しかけた。
たった今・・・あなたに?
Sumomo:はい・・・。
アストリッド:やっと理解できたわ・・・。それで・・・いったい、何と?
Sumomo:ヴォルンルードへ行き、アマウンド・モティエールという者に話を聞かなければならないと・・・。
アストリッドさんは・・・その男と話をするべきだと思いますか?
アストリッド:ヴォルンルードは・・・聞いたことがあるし、場所も知ってるわ。
だけど、その男が誰なのか・・・さっぱり分からない。会って話をするようにと・・・夜母が言ってたのね?
アストリッドは突然腕をつかんで、私を部屋の外に連れて行った。
アストリッド:Sumomo・・・よく聞きなさい。
あの部屋で何が起こったとしても、私の命令に従うの。わかったわね?
夜母があなたに話しかけたという話が本当だとしても、私がこの一族の指導者よ。
・・・そう簡単にこの権限を明け渡しはしない。これまでに何度も聞かされた言葉を使って、私に改めて釘を刺した。
アストリッド:あまりに沢山の事がありすぎて・・・。
私には・・・考える時間が必要ね。この件に関しては、準備が整ったら知らせるわ。
それまではナジルから仕事をもらって。
そう言うと、この場から立ち去った。
ここのところ悩みが多すぎるのか、眉間にシワをよせているアストリッドの顔しか見ていない・・・。
『これから大変になるぞ~・・・覚悟しとかないといけないけど、耐えられるだろうか?
シセロじゃないけど、精神的におかしくなってしまいそう・・・』
・・・私が戻ると、シセロが夜母の前で祝福の舞を披露してくれた。
シセロ:お前は聞こえし者!聞こえし者だぁ~!私は母に本当によく仕えたよ、本当だ!
シセロのお茶目な姿が何とも微笑ましかった。
・・・――――私が聞こえし者として夜母に選ばれた。
それは名誉あることだとシセロは喜んで私を歓迎してくれたが、これはここの闇の一党
家族全員を敵に回したようなものと同じなのでは・・・?
・・・不安が頭をよぎる。
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