【第11話】秘めた想い:前編
アストリッドの指示が出るまで、ナジルからの仕事を行った。
時間を潰すためとは言え、それが人殺しの内容とは一般人がやることじゃない。
・・・いや、私はもう闇の世界にどっぷり浸かった暗殺のスペシャリストなのかもしれない。
吟遊詩人のルーブクと吸血鬼のハーン・・・不幸にも、ハーンの奥さんと思われる女性に
殺害現場を目撃されてしまい、やむを得ず一緒に殺めてしまった。
・・・――――仕事を終えて、泥だらけで聖域に戻ってきた。
恥ずかしい姿を見られないように、そろりと大広間を抜けて通路へと入っていく。
Sumomo:あ・・・ヴィーザラ・・・
バッタリと出くわしたのは、アルゴニアンのヴィーザラ。
私が聞こえし者であることはもう、彼の耳に入っているのだろう・・・。
ヴィーザラ:・・・Sumomoか。仕事が終わったんだな。その証拠にローブの汚れ方が半端ないぞ。
ナジルから聞いたんだが、最近随分と頑張っているそうだな?感心するよ。
『あれ・・・? なんだ・・・知らないのか』
Sumomo:えへへ!ヴィーザラさんに褒められちゃった~♪照れちゃう。
ヴィーザラ:・・・良かったな。これからも頑張れよ。じゃあな。
『それだけかぃ!』
Sumomo:・・・久しぶりに会ったのに、なんだか刺々しいんだけど・・・。どうしたの?
会った途端、ため息ばかりだし・・・なんか、暗いよ?
ヴィーザラ:君には関係のないことなんだ。
そう言うと、ヴィーザラはスタスタ歩き出した。
Sumomo:私に出来ることがあれば・・・力になるよ。家族なんだからさ。
一人で悩まないで家族に相談したほうがいいって・・・アストリッドが言ってたよ。
ヴィーザラ:ア・・・アストリッドが?
くるりと方向転換して、また私の方に戻ってきた。急にいったいどうしたんだろう?
ヴィーザラ:お前の目を見るととても澄んでいる。秘密を厳守する真っ直ぐな目だ。
・・・だから、信用しよう。だが、この場では駄目だ。皆が寝静まる深夜・・・寝室で落ち合おう。
・・・ふとヴィーザラの額を見ると、汗が滲み出ていた。
『寝室~!?ちょっ・・・いくら私達が夜行性でも真夜中にコソコソと・・・。まさかとは思うけど・・・
いや、ありえない。絶対にありえな~い!』
Sumomoの妄想はどんどん頭の中で膨らんでいった。
・・・そのせいなのか妙に神経が高ぶってしまい、仮眠を取るにしても全然寝れたものじゃない。
この気持ちを静める方法を探していくと、自然と自分の足はシセロの部屋へと歩き出していた。
シセロの部屋に幾度となく通い詰め、今ではすっかりストレス発散の場所となっている。
・・・しかし、私が聞こえし者になってからというもの、シセロの歓迎もさることながら
しばしば嫉妬の念を私にぶつけてくるのだ。
シセロ:確かに私は、聞こえし者になりたかった。聴こうとしたし努力もずっとしてきた・・・。
だが、夜母は哀れなシセロには話しかけてはくれなかった。
その沈黙には・・・本当に頭がおかしくなりそうだったよ・・・。
そうだ、夜母がお前を選んだのにもきっと理由があるんだろう。シセロは番人で十分・・・幸せだ・・・
・・・・はぁ~・・・。
こんな感じで毎回、いじけたフリをする。
Sumomo:守りし者ってとてもとても、根気の要る仕事だと思う。
よく続けてこれるなぁ~って・・・感心してるもん!すごい!すごい!!
思いつく言葉を適当に並べて褒めただけなのに、本人はすごく喜んでくれる。
・・・なんて単純なんだろう。
シセロ:私は本当に救われたよ。聞こえし者が永遠に見つからないまま終わるかと思ったんだ。
お前は絶望的な苦しみから私を解放してくれたんだ。感謝しているよ。
・・・そうだ!
ちょっとした物だが、私からの贈り物を用意しておくよ!遠出しないと手に入らない物なのだ。
Sumomo:え・・・?簡単には手に入らない物?私なんかのために?いいの?
本当に貰ってもいいの・・・?・・・でも、その時が来るのを楽しみにしてるね!
シセロ:クフフッ・・・! 聞こえし者の喜ぶ顔が目に浮ぶよう・・・。
シセロはニコニコしながら鼻歌を歌った。
『あ・・・ッ!』
ヴィーザラとの約束の時間をすっかり忘れてた。・・・だが、まだ間に合う。
Sumomo:話しの途中で悪いんだけど、すぐ行かなくちゃ!
シセロ:え・・・?もう??・・・聞こえし者ぉ・・・いったい何処へ行くんだい?
シセロはジーッとSumomoの顔を覗き込んだ。
Sumomo:これからヴィーザラの部屋に行かなきゃ・・・。
シセロ:ええ!?・・・・・ヴィーザラが・・・?こんな夜更けに・・・??
Sumomo:・・・内密な事らしいの。詳しいことは・・・わからないから話せないわ。
事の真相は私にもわからない。
・・・ただ、アストリッドの名前を言っただけなのに、ヴィーザラは敏感に反応してた。
たぶんそのことについて・・・なんだと思う・・・。
場所が場所だけに・・・変な誤解を招きかねないので、伏せておいたのだが・・・。
シセロ:・・・・・・。・・・あっ・・・・・そう・・・。
ずっとしゃべり続けていたシセロが急に黙りこくった。のけ者にされたと思っているのだろうか・・・?
すると、突然シセロは立ち上がった。
ガタン!
シセロ:偉大なる聞こえし者を手玉に取るとは・・・・・・随分と強引なトカゲだねえ!
深夜0時にベッドでどんなお話しするんだい!? それともアレ・・・? アヒャヒャ・・・
・・・・・違うの??
シセロはこれ以上探るのを止めることにするよ!
・・・随分と貴重な時間を使わせてしまったね。だが、朝までたっぷりと時間はある。
Sumomoはドキリとした。
落ち合う場所が寝室なだけに、今のシセロが言った"ベッド"と繋がってなくもない。
とてもシセロは勘がいい・・・
・・・いや、関心している場合じゃない!
Sumomo:あはは・・・そ、そんな・・・違うよ・・・!
誤解しちゃうよね!こんな時間に。・・・変だよね!私も思ったの。
でも心配しないで。あなたを裏切ったりしないから。だからお願い!・・・それ以上は・・・。
シセロ:・・・ああ。・・・私はつい、熱くなりすぎてしまった。
今のは少し言い過ぎたかもしれない・・・。
・・・だが、恐らく見当違いではなさそうだねぇ? どうだい・・・聞こえし者?
シセロと私の間に見えない氷の壁が出来たようで、気まずい空気が流れた。
これ以上話すことはない・・・と言わんばかりの目で私を睨み付けると
シセロは黙って席に座り、ワインを一気に飲み干した。
Sumomo:今日はごめんなさい・・・でも・・・。
・・・彼の洞察力は抜きん出たものがある。だが、思い込みが激しいのもまた事実。
これ以上気を荒立たせたくないのでそっとしておくことに・・・。
後ろ髪を引かれる思いで、Sumomoはシセロの部屋を後にした。