【第20話】嫉妬心上昇中
聖域を離れてから早くも6日が経とうとしていた。
常に夜母をお世話しなければならない人が、私のために遠出し、私のために寄り道までしてくれた。
夜母の側近である私の近くに、ただ居たいだけなのかもしれない。
・・・どちらにせよ、迷惑ばかりかけてしまっていると思う。
さすがの彼の表情にも焦りが見えてきたような気がする・・・。
早く戻ってあげないと・・・夜母はずっと首を長くして、彼を待っているに違いない。
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アストリッド:Sumomo・・・!おかえりなさい。外は雨で大変・・・あら・・・シセロも一緒だったのね。
Sumomo:旅の途中で偶然出会っただけです。・・・あ、ここまで無事で帰ってこられたのも彼のおかげかと・・・。
シセロ:・・・。
アストリッド:そうなの。・・・無事でよかったわ。
シセロ・・・Sumomoは大切な任務の為に出かけていたの。夜母をお世話するだけのあなたとは違うのよ。
Sumomoは私の大切な家族の一員。遊びに行く暇があるのなら、少しは身の回りの片付けをしたらどう?
あと・・・その血生臭い服をなんとかしてほしいわ。臭くてたまらない。
『シセロに対する態度が、前より嫌な感じになってる・・・』
アストリッド:ところで、モティエールには会えたのかしら?彼の望みは何?
Sumomo:・・・タムリエルの皇帝を暗殺するために、私達を必要としていました。そしてこれを私に・・・
アマウンド・モティエールから貰った手紙とアミュレットを見せた途端、アストリッドの目つきが変わった。
そして熱く語り始めた。
アストリッド:ああ、シシスよ・・・!
タムリエルの皇帝を殺すなんて・・・ペラギウスを暗殺して以来の大仕事。
皇帝の暗殺を企てた者は、ユリエル・セプティムの謀殺以来、誰もいない。それももう、200年も前の話よ・・・。
アストリッド:理由がどうであれ、モティエールの情報をあなたに伝えたのは夜母よ。
何が起きているのか私には分からないわ。あなたが聞こえし者なのか・・・ただの偶然なのか・・・・・。
とにかく、この契約を逃さずにはいられないわね。これが成功すれば、闇の一党を栄光に導くチャンスだもの。
これまでにない畏怖と敬意を得られることになるわ!
アストリッドは興奮のあまり手の震えが止まらなかった。
長年衰退していた闇の一党に、やっと希望の光がみえてきたのだから無理もない。
アストリッド:少し情報の整理が必要ね。この手紙を読んで、今後の対応について考える時間が必要よ。
それにそのアミュレット・・・
Sumomo:あっ・・・!
アストリッドはSumomoの手からアミュレットを奪い取り、まじまじと眺めた。
アストリッド:このアミュレットは鑑定が必要のようね。
どこのものでどのくらい価値があるのか知りたいわ。うまく売りさばくことができるかどうかも・・・。
シセロはハッとした顔でアストリッドのほうを見た。
・・・その顔は欲望に満ちたものだった。
シセロ:その趣味の悪いアミュレットはアマウンド・モティエールが、偉大なる聞こえし者に譲り渡した物だ。
ふーむ・・・まてよ?まさか、自分の物にしようなんてこと考えていないよねぇ?
アストリッドは鼻でクスっと笑った。
アストリッド:私が教義の内容を知らないとでも?
・・・でも今となっては従うことは無意味だわ。五つの教義の額もあって無いようなもの。
これはね、仮に高値で売れたとすれば・・・その資金は全て闇の一党の軍資金にあてるつもりよ。
今更教義に触れるような行為でも、シシスの憤怒にはならない。・・・残念だったわね。
シセロ:・・・・・・。
アストリッド:Sumomo、明日にでも行ってきてちょうだい。
場所はリフテンのラットウェイに拠点を持つ盗賊ギルドよ。
デルビン・マロリーという男が盗品を買い付けてるわ。彼に鑑定をお願いしてきてちょだい。
手紙は私に。アミュレットはマロリーに届けて。
情報を聞き出して彼が望めば、アミュレットを売ってきてほしいの。よろしく頼むわね。
・・・今日はゆっくり身体を休めて。
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シセロ:ふんッ!・・・アストリッドめ、まだ何も分かってないようだ。
聞こえし者への敬意も知らないとは・・・失礼極まりないよ。
このことをシシスや夜母が黙って見過ごすものか。そのうち痛い目に遭うだろう・・・・。
残念だがそのアミュレットは・・・素直に鑑定人に見せたほうがよさそうだ。
シセロは悲しい目でSumomoを見た。
Sumomo:たとえアミュレットが高価なものだとしても私にはこんなの必要ないよ。
第一アクセサリーにはあまり興味ないし・・・。
シセロ:ほぉ~。
石の階段を下り、各メンバーの部屋へ繋がる大広間の中央付近まで二人は歩いた。
大広間には鍛冶場があり、横には練習台のカカシが置いてある。
いつもはアーンビョルとヴィーザラに占領されていた場所だったが、今日はヴィーザラ一人で
黙々と剣を振り回し、修練に励んでいた。
シセロはヴィーザラを見つけるなり、足早にその場から離れようとSumomoを追い越して
スタスタ歩いて行ってしまった。
この二人は仲が悪い・・・というよりも、一方的に嫌っているのはシセロの方だった。
Sumomoは大広間の中心付近までシセロに追いついたとき、なんとなくヴィーザラの方を振り向いた。
私達の気配に気付かずに、熱心に剣を振るっている姿が目に映る。
そして彼の額を汗が伝ってキラキラと輝いていた。
・・・――――ヴィーザラはとても真面目で、誰よりも能力が上であるにも関わらず
決して慢心になったりはしない。そして謙虚な態度も持っている・・・。
そんな彼の姿に見惚れていると、急にヴィーザラは剣を鞘に収めてクルリと振り返った。
ヴィーザラ:・・・Sumomoだったか。集中していて誰なのか分からなかったよ。
・・・それより、シセロも一緒だったんだな。二人とも仲が良かったなんて意外だよ。
Sumomo:えっ・・・そ、そう見える?えっとそのぉ・・・仲良くもなく、悪くもなく・・・
一緒になることが多いから・・・そう見えるだけなのかも。
Sumomoはしどろもどろになりながら、シセロとの関係をやんわりと否定した。
ヴィーザラ:そうか・・・。・・・まぁ、今の状態を維持できればいいかもな・・・色々と・・・さ。
俺から助言する必要も、とりあえず無くなったってわけだ。
Sumomo:え?それはどういう・・・・・
・・・――――自室に向かっていったはずのシセロが、再び戻ってきた。
そして無言でSumomoとヴィーザラの間に割って入り、Sumomoの手をギュッと強く握って引っ張った。
・・・!
・・・―――――――――――――――――――――・・・
一瞬の出来事だったが、二人の睨み合いはずいぶん長かったように感じる。
ヴィーザラ:・・・。
シセロの顔を、恐る恐る見ると怒気に満ちていた。
その鋭い刃のような表情からはとても想像はつかないが、強く握り締められた手は痛みを感じることはなく
暖かくて優しい何かをSumomoは感じた。