私はアストリッドに頼まれた仕事を早々と終えて聖域に戻った。
最後にシセロと言葉を交わしてから5日経たった、午前7時過ぎのことだ。
『ああ・・・丸々絶食・・・さすがのカジートにゃんもおなかペコペコだよ~ん。
・・・あっ・・・!・・・そうだ、忘れてた』
ここに戻ってきて今思い出した。シセロの本当の目的を聞きに行こう。
ふらふらと聖域内を探しまわると・・・あった!
長年使われていなかったらしい洞穴みたいな部屋が、いつの間にかシセロのものとなっていた。
今にも崩れそうな岩の合間からは日差しが少し漏れている。
『またお外に行きたい・・・こんなジメジメしたとこ嫌だな・・・』
・・・そう思いながらも、久しぶりの顔にご挨拶。
Sumomo:おはようございまーす。・・・元気してましたか?
シセロ:やぁ、やぁ。遊びに来てくれたんだね?シセロはとても嬉しく思っているよ!
まだ未熟な見習い・・・魔法使い・・・だが、シセロはとても歓迎してくれた。
どうやら私が初めての来客者で、今日まで誰もシセロの部屋に遊びに来なかったらしい。
シセロ:仕事はうまくいってるか?・・・おや?しばらく見ないうちに随分と痩せちゃったね~?
そう言うと、温かいワインとパンを手際よく用意してくれた。
まだそんなに顔を合わせていないのに仲間のコンディションを見分けられるなんて・・・。
―――――――――――・・・
Sumomo:ふぅ~・・・。美味しいワインだった!ご馳走様。
・・・ところで、シセロさん。私ね、ゴハン食べに来たつもりはなかったの。
他に理由があってここに来たのよ。
シセロ:食事じゃなかったら・・・私と一緒に遊ぶのかぁ?・・・お手玉とか??
アッチなら得意だぞぉ~?
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Sumomo:ち、違う違うッ!!!(アッチってなにさ・・・
えええっとね~・・・・・あれ??何聞くのか忘れちゃったよ~!うおぉぉぉ・・・
シセロ:クク・・・動転してるッッ。
シセロはおなかを抱えて笑いをこらえている。
・・・・遊ばれてるよ、完全に!シセロ:・・・はぁ~あ。弄りやすいなぁ・・・お前。こんなに笑ったのは・・・
シェイディンハルに居た時以来か?・・・いや、ブルーマ。
シセロは遠くを見るようにチラリと天井を見上げた。
いきなり真顔になったものだから、Sumomoは少し驚いてしまった。
シセロ:私が聖域を転々としてるのが疑問に思ったかい?各地で諍いが起きているのは
お前も知っているだろう?・・・そのせいで何度も危険を回避してきたんだよ。
・・・―――最愛の兄弟姉妹が次々に居なくなって・・・・・・あの頃は・・・本当に辛かった。
独り言をぶつぶつ言ったり急に明るくなったり・・・落ち込んだり・・・
・・・テンションの波が激しい。
まだ怒った顔はみてないが・・・。
Sumomo:戦争の影響で聖域が一つずつなくなっていったことはすごく悲しいことね・・・。
幸い、ここだけ機能していてほっとしたでしょ?・・・あなたの夜母も無事でいて良かったし。
シセロ:あのとき、お前がロレイウス農園で私達を助けてくれなかったら今頃どうなっていたか!
・・・想像しただけでも恐ろしいよ。
彼女の身体が無傷でいられたのは守りし者としての管理を怠らなかったのもある。
だってシセロはシシスや夜母を崇拝する
熱狂的な信者だもの・・・。
シセロ:・・・だが、安心はしていないよ。ちっともだ!なぜならここには・・・
聞こえし者の姿が・・・ないんだから。
シセロがここに来た理由・・・夜母の安置場所として。
そして、最大の目的は
聞こえし者を探すため?シセロ:聞こえし者が最後に亡くなってから・・・もう少しで13年になる。
聞こえし者とは・・・夜母が唯一話しかける相手だ。闇の一党の一員が得られる最高の名誉なのだ!
夜母は・・・シセロのことも、アストリッドのことも選ばなかった。他の誰もだ。
・・・だがいつか・・・きっと・・・。
Sumomo:誰も聞こえし者に相応しくないなんて・・・。
私はカジートだし、まだ闇の一党の一員としては新人だし・・・確率薄っぽいね。
シセロ:・・・それは全て母がお決めることだ。
たとえ才能に満ちた暗殺者でなくても、貧しい家庭で育っても、聞こえし者が
オークだろうとカジートだろうとも・・・!・・・私はどんな命令にだって従うよ。本当だ!
でも、嘘を付いてまで聞こえし者になろうとは思わないほうがいいぞォ?
かつて
自分は聞こえし者だと主張した男がいた。
・・・・・・だが、そいつは私に尋ねられた
呪縛の言葉を言えなかったのだ!
彼は有能な
伝えし者だったが・・・これはシシスや母、兄弟に対する侮辱だ。
そう判断した翌日・・・・・始末したんだよ。ウェヘヘへ・・・・・・あのクソ蟲・・・
カジートめ・・・・・・。
『カ・・・カジート!?』・・・ゴクリ。
シセロ:・・・・ああ!もう、9時か!愛しの母の面倒を見なくてはならないよ・・・!
今回はつまらない内容だったかもしれないが・・・
お前ともっと仲良くなれたら、今度はプライベートな話がしたいなぁ~。
Sumomo:・・・あ、ああ、うん。そうだね!
カジートを始末したという話に動揺してしまって、つい適当な返事になってしまう。
シセロ:私のことに興味が湧いてきたかい?また後で遊びに来るといい。
個人的な内容だが・・・面白いものをテーブルの上に置いておくよ。それじゃ、またな~。
・・・そう言うと、シセロは風のように部屋を出て行った。
今回シセロと会話したことで、少しだけ素顔が垣間見えたような気がした。
あぁ・・・まだ聞きたいことがあったのに・・・。
あなたは暗殺者なのに・・・夜母の面倒を見るだけなの?とか。
・・・その答えは、後でもう一度ここを訪れたときにテーブルの上で見つけることになる。
14年もの長きに渡って、綴った日記。
声にならない、シセロの心の叫びが詰まった日記だった・・・。
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